「 スラパンをどこかで紛失して、それからずっと探している人。 」として、
息子は同リーグ他大の女子マネージャーさんたちからもすっかり知られている模様。
そりゃあそうだろう、
「 あのう、スラパンの忘れ物はありませんでしたか? 」なんて尋ねてまわっている男なんてな、
息子の他には滅多にいないだろう。


自己責任とは、この事だと、
あえて僕ら夫婦は両親としての良心に従い、スラパンの件に関しては放ってある。
どこかに紛失しちゃうなんてな、物を大切にしていない証拠だと僕は思う。
二十歳を過ぎているのだからね、そんなモン買い与えませんよ。


だから、
「 あのう、スラパンの忘れ物はありませんでしたか? 」ってね、
恥を忍んで尋ねまわり、その重みを思い知ればいい。
スラパンを尋ねて三千里っていう物語の主人公になれ。


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アルバイトをしてようやく少々のお金を手にした息子は、
新宿まで野球用品を買いに出掛けたのだが、
持っていたお金では到底買えないほどの大量の品物を持ち、
ありがたいありがたいと目を潤ませて帰宅。


野球ジェントルマン、木村コーチ(野球の上では息子にとっての父)の温情の賜物である。


木村コーチ、ありがとうございました。
必ず大切に使わせますので、
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。


ありがとうございました。
ありがとうございました。


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その品物の中にはもちろんスラパンもある。
これでもう息子はスラパンを探している人とは呼ばれずに済む。


スラパンを探している人 とは呼ばれなくて、
スラパンを探していた人 と呼ばれるようになる。