プライド
夏の日の試合でのこと・・・。
スクイズが決まった!スクイズが必要な場面かどうかは疑問だったけれど・・・。
とにかくスクイズは成功した。
3塁にいた走者は、見事に捕手のブロックを掻い潜って、生還・・・。
ベンチに戻った走者の様子がおかしい・・・・。
また怪我か!一瞬僕の胸に不安がよぎる・・・。
「スパイクの紐が切れた!」ベンチから聞こえてくる声に胸をなでおろした。
怪我ではなくて良かった。やっと肘の怪我から復帰出来たんだ。
走者だった子供の母親がしゃがみ、切れた紐を結んでいる。
でも上手く出来ない。どうしても無理だった・・・・。
その間に彼らのチームの攻撃は終わる・・・・。
「タイムをお願いします。」
試合が止まる。走者だった男の子のスパイクは、まだ直らない。
ベンチの中で監督が立ち上がり、控えで座っていた選手に声を掛けた・・・・。
「おい!オマエ、靴のサイズいくつだ!」
夏だったけれど・・・その時冷たい風が吹いた。
グラウンドに、僕の心に・・・、哀しい風が吹いた。
大人たちの追従笑い・・・・。悲しくて冷たい笑い・・・。
靴を脱げと言われた選手のお母さんは応援席にいない・・・。
彼は一瞬、空を見て、照れたような顔をして微笑んだ。
そして下を向いて微笑んだまま、自分のスパイクを見つめた・・・・。
悲しい微笑み。誇り高き野球小僧の悲しい微笑み・・・・。
僕は胸がつぶれそうになる。
今朝、その男の子はどんな顔をしてユニフォームを着たんだろう?
きっと晴れがましい気持ちでね、スパイクを履いたに違いないんだ。
「お母さん!行って来まーす!」ってね、元気に家を出たに違いないんだ。
僕は涙が出た・・・。
悲しいチーム・・・・・・・・
悲しい野球・・・・・・・・・
奪う大人たち・・・・・・・・
「僕の紐を使って下さい!」
ベンチの中のお父さんコーチが機転をきかせた。ナイス!Sさん。
彼のプライドは、お父さんコーチに守られた・・・。
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夢を与えてくれる大人だって多勢いるんだけれど・・・。
人生いろいろ
大人もいろいろ
どうか、子供たちの側に・・・・・。
お願いします。