POWERPASSION
むかしむかし、月に向かってホームランを打っていた男がいた・・・。
これはね、本当の話なんだよ・・・。
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今よりも僕たちの国が貧しかった時代・・・。
現在の中学生の君たちの親である僕らの世代だってね、生まれるずっと以前の時代・・・。
野球の好きな子供が野球を学ぶなんてさ、きっと本当に大変だっただろうね・・・。
若くしてお父さんを亡くした彼に、野球を続けさせてくれたのは、たった一人のお兄さんだった。
身体の弱かったお兄さんは、それこそ自分の命を削るようにして、弟に野球の道具を送り続けたんだ。
月に向かってホームランを打っていた男は、だから道具を大切にした・・・。
純粋に野球が出来る喜びを噛み締め続けた人生を走り抜けた・・・。
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彼がプロ野球選手になった時、彼のお兄さんは亡くなった。
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彼がなぜ、月に向かってホームランを打つようになったのか?って事を問われたならね、
多くの評論家や記者は現実的な答えをするだろうと思う。
でもね、僕は、こう考えているんだ・・・。
大好きだったお父さんや、大切なお兄さんが月から見ている・・・。
こうやってプロ野球選手になって、がんばっている自分の姿を見てくれている。
彼はきっと、そう信じていたに違いない・・・。
お父さんやお兄さんにね、ホームランを届けたかったに違いない・・・。
だからこそ彼は、あれほどまでに、力と情熱に溢れて打席に立つ事が出来たんだよ・・・。
それが僕の答えなんだ・・・。
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月に向かってホームランを打っていた男がいたんだ。
むかしむかし、本当にね、そんな男がいたんだぜ・・・。
今、野球を習っている全ての野球少年たちに知っていてほしい・・・。
彼の名は、大杉勝男。
勝男・・・。勝つ男だ・・・。
素晴らしい名前だ・・・。
彼自身もまた、僅か47歳の若さで逝く・・・。
日本の野球界に、たった一遍なのだけれど、壮大で美しい詩を遺して・・・。
お父さんやお兄さんの待つ、天空の月へと逝った・・・。
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今夜もきっと、多くの少年たちが、素振りやランニングをしていただろう・・・。
もし君が、輝く月に気付いたら、月から君を応援してくれている誰かの気配を感じておくれ・・・。
君たちをきっと、大杉さんは見守ってくれているに違いない・・・。
天空の誰かに好きになってもらいなさいよ。
天空の誰かに好きになってもらえるように・・・、
いつまでも真っ直ぐな瞳で・・・。
いつまでも真剣な気持ちで・・・。
誇り高く、君らしく・・・。
がんばっておくれよ。
世界中、全ての野球が好きな子供たち・・・。
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詩のような足跡を遺すんだよ・・・。
君は、君の物語の主人公なのだから・・・。