だりかさん。
昨日と同じ景色の朝だった。
見上げれば赤とんぼの群れ。
足元にはセミの亡骸。
朝の風がすっかりと変わっている事に気付き、ふと歩みを止めて深呼吸をする・・・。
ほのかにかすかに、でも、たしかに秋の匂いがした・・・。
もみじの葉の、陽の当たらない何枚かは既に赤くなっていたりして、
たしかだがかすかな秋の匂いは、さらにたしかさを増しているように感じた・・・。
うむ、
ちいさな秋だ・・・。
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詩人、サトウハチローさんが遺した、朗読テープを聴いた事がある。
独特のイントネーションで語るサトウハチローさんの言葉は温かであった・・・。
「だりかさんがぁ〜 だりかさんがぁ〜
だりかさんがぁ〜 みぃ〜つけたぁ〜
ち〜さい秋ぃ〜 ち〜さい秋ぃ〜
ち〜さい秋ぃ〜 みぃ〜つけたぁ〜」
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僕はしゃがみ、セミの亡骸を手のひらに乗せ、
そっと植え込みの中の奥へと置いた・・・。
その時に見つけたんだよ、
コスモスが芽を出している事を・・・。
これもまた、ちいさな秋だと言えよう・・・。
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「だりかさんがぁ〜 みぃ〜つけたぁ〜」
今朝、僕はきっと、だりかさんだ・・・。
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ち〜さい秋ぃ〜 見ぃ〜つけたぁ〜・・・。