青春の味。

居酒屋のメニューの中に「コマイ」を見つけ、
僕はすっかり嬉しくなってそれを注文した・・・。


コマイだよ、コマイ・・・。
コマイこそ僕の青春の味・・・。


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高校時代、寮で過ごしていた僕らにとって、
各々のお母さんたちが送ってくれる宅急便が楽しみだった・・・。
僕も、そう、
荷物が届くと嬉しくてね、大事に抱えて部屋に運んだ・・・。
段ボール箱の中には、お菓子やらラーメンやらたっぷりと入っていて、
シアワセいっぱいな気持ちになったものだ・・・。
家族の近況を伝えるオフクロの手紙も入っていて、
難しい年頃であった僕も実は、そんなオフクロの手紙を読むのが好きだった・・・。
その頃のオフクロの手紙をね、僕は今でも捨てずに持っているのだから、
現在の野球のお母さんたちよ、難しい年頃の息子に宛て、手紙を書いてみるのもいいかもしれない・・・。
たぶん、返事は来ないのは確実なのだけれど、
しっかりとしっかりと受け止めてくれるはずだ・・・。
だから時々、手紙に想いを書いて渡してあげてほしい・・・。


「がんばれがんばれ!」の一言だけでいいから・・・。


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おっとっと、話がそれてしまった・・・。


そうそう、コマイのこと・・・。


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同級生の、北海道出身だったOくん・・・。


Oくんに届く荷物は、中身がぜ〜んぶコマイだった・・・。


鰹節みたいな大きさの堅い魚で、そのままむしりながら食べるのが美味であった・・・。


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僕のオフクロの手紙は、
いつも白い便箋に書かれていて、封筒に入っていたのだけれど、


Oくんのお母さんの手紙は、ね、
なまら大きい紙に極太のマジックで書かれていた・・・。


いつも、
「みんなと仲良くしていますか?」って、同じ文章が書かれていた・・・。
毎回同じ、「みんなと仲良くしていますか?」ってね・・・。


Oくんよ、オマエ、よっぽど協調性の無い男なんだな〜と、僕は思っていたのだけれど、
さにあらず、彼はいつも気前良くコマイを僕らに分けてくれた・・・。


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「お待ちどうさま。」と、
居酒屋のママがコマイを運んで来てくださった・・・。


だが、違う・・・。
僕がイメージしているコマイとは違う・・・。


長さが約4センチちょっとの小さな白身魚が2尾・・・。
しかも柔らかくてマヨネーズ付き・・・。


違う!
違うのよ、ママ、ごめんなさい・・・。


でも、美味しくそれを僕は食べたのだけれど・・・。


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デカくて堅いコマイ・・・。
むしりながら食べるコマイ・・・。
氷の下の魚と書いてコマイ・・・。


それが食べたい・・・。


臭いヤツ・・・。
思春期男子の部屋の匂いがするヤツ・・・。
噛めば噛むほど味がするヤツ・・・。


それが食べたい・・・。


寮の部屋でそれを食べた後、
先輩が帰って来て、クンクンと部屋の匂いを嗅いで、
ニヤッと笑い、
「オマエ、元気だな。」って、言われちゃうようなヤツ・・・。


そんなコマイが食べたい・・・。


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忘年会のシーズン、
悪酔いに注意・・・。