僕の手がデカイから。(その1)
歳末と言えば昔っからね、「福引き」が定番・・・。
賑やかな商店街でさ、ガラガラポンって楽しい音がして、
当たってもハズレても誰もが笑顔だった・・・。
がんばれがんばれ商店街!
僕は、商店街が大好きだ・・・。
八百屋さん、魚屋さん、お肉屋さんに薬屋さん、
お花屋さん、おもちゃ屋さん、乾物屋さんに時計屋さん・・・。
大規模店は要らない・・・。
小さな子供たちや、お年寄りたちが歩いて行ける場所に、
ささやかでもシアワセな暮らしの近くに、
いつまでも元気な商店街があってほしい・・・。
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僕にもな、商店街の「福引き」の思い出がある・・・。
それは、僕が4歳の時の出来事だ・・・。
ちょうど今頃と同じ歳末、
「ヤバタの市場」なる賑やかな商店街に僕は、
祖母に連れられて買い物に出掛けていた・・・。
買い物と言ってもね、僕の目的は「福引き」だけだったのだけれど・・・。
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台の上に乗り、ようやく背丈が届いた僕は、
勢いよくガラガラを回した・・・。
ポン!ってね、キラキラの玉が転がり出て来て、
「50円玉掴み取り」が当たった・・・。
うれしくてな〜、
うれしくてな〜、
僕は飛び上がって喜んだ・・・。
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大きな透明の箱の中に、目がクラクラ眩むほどの大量の50円玉が入っていた・・・。
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穴の中から手を入れて僕は、50円玉を鷲掴みしたんだよ・・・。
グワッシとな・・・。
わっはっは!アナタのハートも鷲掴み!なんちゃってな具合でさ、
ウキウキ気分で50円玉を鷲掴みした・・・。
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だが、あまりにもたくさん握り過ぎていて、
今度は手が抜けなくなってしまったんだ・・・。
うわ〜ん、抜けないっ!
僕は、この人生の中で、それはおそらく一番最初であっただろう「がんばり体験」として、
鷲掴みにした手をそのままの形で穴から抜くべく努力を試みたのだがダメだった。
どうしても抜けなかった・・・。
どうしても抜けなくて、
どうしたら良いか分からなくなって、
それで泣いた・・・。
意地でも掴んだ50円玉だけは離すまいと泣いた・・・。
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商店街のオジサン:「いいから一度、手をパーにしなさいっ!」
僕:「いやだっ!絶対いやだっ!うわ〜ん!うわ〜ん!抜けないよ〜っ!」
号泣する僕を見かねた商店街のオバサンが、僕の脇の下をコチョコチョした・・・。
あまりにも唐突なコチョコチョに驚いて、僕は手を開いてしまった・・・。
そしてようやく手は抜けた・・・。
コチョコチョのオバサンは僕の肩を抱いて言った・・・。
「良かったね〜、アンタは人間で・・・。
もしもサルだったら今、捕まっちゃったところだよ・・・。」
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話は本末転倒なのだけれど、
せっかくたくさん掴んだ50円玉を放してしまった悲しさよりも、
手が抜けた嬉しさの方が、いつの間にやら勝っていた事を覚えている・・・。
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その事件で初めて気が付いたのは、自分の手の大きさ・・・。
4歳だぞ、普通ならさ、どんなにたくさん掴んだって抜けそうなものだろ?
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歳末、「福引き」・・・。
「福引き」と言えば思い出す掴み取り事件・・・。
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現在でもな、
元気な商店街では「福引き」ってやってるのだろうか?
やっててほしいな・・・。
ガラガラポン!
大当たり〜っ!って、ね。
ポン!
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その後、もう一度やらせてもらったんだよ。
50円玉掴み取り・・・。