君らしくあること。

序章。
駒沢オリンピック公園で僕は、ブラザー・トムさんをお見掛けした。
身体はレトリバー、顔つきは純和風の、とても可愛い大きなワンちゃんと散歩をしておられた・・・。
僕はブラザー・トムさんが好きだからな、
同じ歩幅で傍を歩きながらドキドキした・・・。


コインパーキングに停めた車まで引き返そうかと思った。
車の中に常備してあるトムさんのCDを取りに戻ろうかと考えたんだよ。
CDを持ってさ、ファンです!サインくださいな!って声を掛けたとしたらきっと、
気さくなトムさんだもの、快く応えて下さるに違いない・・・。


だが、小心者の僕は、そんな事すら出来なかった・・・。


ただ、ブラザー・トムさんの傍で、
同じ歩幅で歩いている自分がすごく嬉しかった・・・。
ドキドキした・・・。


格好良い人だった。
やっぱりね、マジで格好良い人だった。


僕は、これから、ブラザー・ゴリと名乗ろうと決めた・・・。


写真は、そう、ソメイヨシノ・・・。
ソメイヨシノを撮った・・・。
ソメイヨシノを撮ったのだけれど、
偶然にも、ね、
ソメイヨシノの下のベンチに座るブラザー・トムさんも写っている。
偶然に写ってしまった・・・。


え?ちっこくて見えない?
ブラザー・トムさんが見えないってか?


だって僕はソメイヨシノを撮ったんだもん。
これでイイのだ・・・。


♪恥もかいてきた 辿り着くために
 でも傍にはオマエがいる なにも恐くない
 うぉん・びー・ろんぐ
 うぉん・びー・ろんぐ
 もうすぐさ笑えるまで
 うぉん・びー・ろんぐ
 うぉん・びー・ろんぐ
 オマエのためにすべて♪


こんな詩を謳う男を身近に感じて、僕は胸を焦がした・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


序章を越えて。
さて、本題に入ろうか・・・。


Tくん・・・。
そう、
僕の息子が小学1年生だった時の、
小学6年生だった野球少年・・・。


現在、22歳・・・。


高校時代までずっとずっと、華やかな舞台で野球を続けていたのだけれど、
野球で進んだ大学では、ね、
ある方向からしか見ない人たちから見れば、
残念な結果に終わった・・・。


でも君は、
日本中の誰もが知る、あの野球強豪校の主砲として、
大ブレーク前のハンカチ王子と対戦したんだよな・・・。
西東京の大会で・・・。


僕はその日を忘れないよ・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


野球での道は拓けず、
かと言ってこのご時世、就職もままならない・・・。
あえて留年をして大学に残る自分を、
彼自身が責めているのが切ない・・・。


Tくんと酒を飲んだ・・・。


子供時代をよく知る野球小僧に酒を奢るのは初めてだ・・・。


自分自身を責め続ける若者に贈れる言葉を持たぬ僕が歯がゆい・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ただ、肩を強く叩くしかなかった・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


がんばれがんばれ、Tくん・・・。


世は不条理なもの・・・。
でもね、不条理なのだけれどね、


それを乗り越える力こそ若さ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


僕は信じて見守ろうと思う。


未来を切り開くのはきっと、
不条理を乗り越えた若者たちなんだから・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


就職浪人?


あ?
オジサンを見てみな、


人生そのものが浪人なり・・・。
でも生きてるぞい・・・。


外にたくさん出掛けなよ、
ソメイヨシノが綺麗だぞい・・・。