草枕と神様のカルテ

息子の机の上に、文庫版の「神様のカルテ」がある。
ボロボロとまではいかないまでも、繰り返し繰り返し読み込まれた文庫本は、
だいぶくたびれてはいるのだけれど、愛蔵本そのものといった趣がある。


本物のお医者さんが著した「神様のカルテ」には、
スーパードクターは登場しない。
弱くて、けれど優しくて、
患者さんの手を握り、共に泣き、共に嘆く、志高き医者たちがいるだけだ。


この浪人時代の間、
息子は、どのような想いで「神様のカルテ」を繰り返し読んでいたのだろうかと考えると切ない。
切ないのだが、嬉しいのだ。
息子よ、父ちゃんはそれが嬉しいのだ。
君が、たとえ弱くても優しい医者になろうとしている事が解って嬉しかったのだ。


この小さな文庫本は、君の標(しるべ)なのだろうな・・・。


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医者とは、アンパンマンなのだ。
弱い人の側に立ち続ける人のことを言うのだ。
悲しい人と一緒に歩む人のことを言うのだ。


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サクラサク・・・。
息子の胸にサクラサク・・・。


2年の浪人生活を経て、サクラサク・・・。
医学部に合格しました。


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神様のカルテ」の主人公である一止は、
夏目漱石の「草枕」の文庫本を反芻して読み続けている。
神様のカルテ」の文庫本を反芻して読み続ける医者がいてもいい・・・。


アンパンマンのような人間になってくれ・・・。