「 オト〜タン、キャッチボ〜ルシヨウ! 」
春の優しい風に乗って、そんな声が聞こえた気がした。
お昼ゴハンを一人で食べて、ゴロンと横になった10分程度の昼寝の中で、
僕は、その懐かしい声を聞いたのであった・・・。


「 オト〜タン、キャッチボ〜ルシヨウ! 」
青いビニール製の小さなグローブを持った幼い息子が、
寝ている僕の肩を手で揺らして言っている・・・。


「 オト〜タン、早ク、早ク、キャッチボ〜ルシヨウヨ! 」


おう!
久しぶりだな・・・。
下駄箱の上の棚にある、父ちゃんのグローブを出しておくれ。
君が来てくれるのを随分と父ちゃんは待っていたよ・・・。


キャッチボールしよう!
キャッチボールしよう!
幼い頃の君と、
父ちゃんで、
いつまでもいつまでもキャッチボールをしよう!


父ちゃんは、君と、
もっともっと拙いキャッチボールがしたかった・・・。
こうしてまた会いに来てくれて嬉しいよ・・・。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


膝丈あたりまである笹の中に、
転がり込んでしまったボールを僕は探す・・・。
幼い息子と一緒になって探す・・・。


探しながら僕は、
こうして過ごしていた何気ない時間こそが宝物であったのだと噛み締める。


シアワセだったと噛み締める・・・。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


目覚め、
ああ、やはり夢であったのかと思う・・・、
夢であったのだと気付き、落胆する・・・。


落胆するのだけれど、シアワセだなと感じる・・・。


僕は、泣いていた。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


キャッチボールしよう!
キャッチボールしよう!


大人になってしまった野球小僧たちよ、
お願いがある・・・。


時々でいいからさ、
幼い日の君の姿に戻り、
君の親父さんの夢の中へ遊びに行ってあげてくれないか?


そして、
「 オト〜タン、キャッチボ〜ルシヨウ! 」って、
君のあの優しい親父さんに言ってあげてくれないか?


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


お願いだよ。