夜遅く、息子を駅まで迎えに行く。
ただ単に迎えに行くのではなく、駅からの帰途を息子に運転させるための措置である。
ただ単に迎えに行くだけであったら僕は、
ただ単なる甘い、スイ〜トな親父になってしまう。


駅の階段を降りて、
車に近付くやいなや、
アズ・ス〜ン・アズ、
息子は、
「 腹が減ってお弁当を食べたいから運転はいいや。 」と言った。


それはダメだ、許さん。と、僕は言った。
なぜなら、
ただ単に駅まで迎えに来た甘い親父になってしまうからである。


お弁当を食べてから運転をしろ。
ってこった・・・。


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ややっ!
そのお弁当は何だっ!
どうした?


てっきりコンビニ弁当かオリジン弁当
もしくは ほっともっと弁当 だと思っていたのだが、
息子が大事そうに抱えていたのは、
各辺30cmの正方形の、
硬い木のような厚紙で出来た、
角のところがあたったら相当痛いんじゃないかと思えるほどの豪華な弁当であった。


神田明神の老舗の、高そうなお弁当である。
高そうで美味しそうな、
僕なんか48年生きていても縁の無いお弁当である。


どうした?ソレ。
何か悪い事をして手に入れたんじゃないだろうな。
悪い事をしたなら父ちゃんに正直に言いな。
一緒に謝りに行ってやっから・・・。


「 実習先で貰ったんだ。
薬屋さんが持って来てくれたんだ。 」との由。
いいクスリです。
って言うか、良いクスリ屋さんです。って、その顔に書いてあった。


僕なんかはホレホレ、
人一倍、食べ物の恨みや恩義を持つタイプだからさ、
こんなお弁当を貰ったら一生涯その軍門に下っちゃうと思う・・・。


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美味しいか?
「 うん、すごく美味しい。 」
一口どうぞとか言うつもりは無いか?
「 うん、無い。」
一口くれないか?
「 ダメ。 」


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美味しいものを頂いても、その軍門に決して下らず媚びぬ為には、
その味に慣れてしまうか一切受け取らないかのどちらかだ・・・。


息子はこれから様々な場面で試されるのではないかと思う。


もしくは受け取ったとしても、
ナースたちの休憩室へ持って行って、
「 頂き物ですが、皆さんで食べて下さい。 」って言えば、
母ちゃんたちのようなナースを味方に出来るんじゃないか?


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僕だって食べたい。