PUKA-PUKA

その時僕は4歳だった。
だが、その時の状況はハッキリと覚えている。
滝野川の銭湯だ・・・。


いつものように僕は、母方の祖父と一緒に銭湯に出掛けた。
T教の教会であった母の実家にも もちろん風呂はあったのだが、
教会長であった祖父は、地域の人たちとのふれあいが好きだったのであろう、
銭湯で入浴するのが日課だったのだ。


当時の銭湯は、今よりも賑やかだった。
まさしく地域の社交場のような存在だったのではないかと思う。


僕もまた、祖父と銭湯へ行くことが好きであった。
そうだよ、
あまりうるさく言われないで済むんだもんね、おじいちゃんと一緒って銭湯は。


テキト〜に身体を洗い、湯船へ。
しっかり肩まで浸かって4歳ながらくつろいでいると、
目の前をプカプカと、運古 が流れて来たんだ・・・。
丸い、運古 だった・・・。


周囲の人たちもそれに気付き、ザワザワし始めたのだが、
その時、
祖父は その 運古 を、両手ですくい、
サッと湯船の外へ流した・・・。


そして祖父は、周囲の人たちに向かって言ったんだよ、
「すみません、ウチの孫が・・・。」って、な。


えええええっ!
僕じゃないよ!って、
それは僕の 運古 じゃないよ!って、
言えば良かったと今でも思うんだ。


本当だよ、アレは僕の 運古 じゃないんだ、
神様に誓ってもいいよ、僕じゃない・・・。


でも、
それでその場が丸く収まったのだからな、
それはそれでオッケ〜牧場だったのかもしれないな・・・。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


都内最古の銭湯閉店のニュースを聞き、
僕は今日、御徒町の帰途に滝野川へ立ち寄り、
祖父との思い出の銭湯で入浴をした・・・。


懐かしい銭湯が未だ存在している嬉しさと、
往年の賑やかさの無い銭湯の内実を考えていたのだ・・・。


ばばんば ばんばんばん・・・、
ばばんば ばんばんばん・・・。


かの 最古 の銭湯にも、
運古 が浮かんでいた日々はあったのだろうな・・・。


時代は変わる・・・。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


肩まで浸かろう・・・。