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鼻の穴を心持ち大きめに開いて嗅いでも、
金木犀の香りはしなくなった。
ひとつずつ秋は深まる。
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夕方6時には、外は真っ暗になる。
家路を急ぐ足元に注意。
駅から黒目川沿いの遊歩道を歩いていると、
懐かしい空気に触れている気がする。
野球のオヤジの仲間からメールがあった。
セガレの就職先が決まったとの事。
おめでとう!って返信をする。
いよいよ来春には社会人か・・・。
なあ、
つい10年ちょっと前だよな、
まだほんの子供だったセガレたちと僕らが一緒に走っていたのは。
懐かしい空気に触れているような気がしてならないのは、
どこかでまだ子供のままの僕らのセガレたちが遊んでいるんじゃないかって思うからなのかもな。
そうかもしれなくなくもない。
遊歩道沿いにあるいくつかの公園には、
人影は無く、ただ遊具が電灯に照らされているだけだ・・・。
同じ時代を共に過ごした子供の野球の親父の仲間たちよ、
何か忘れ物をしているんじゃないだろうかと思っているのは僕だけかい?
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ムキになって鼻の穴を更に大きく開いて嗅ぐ。
クンクンクンと嗅ぐ。
ようやく金木犀の香りを見つけた。
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松尾芭蕉の享年が50歳だったと知り、
僕は、僕自身の生き方を思ってガッカリとした。
まだ僕は、何一つ遂げてはいない・・・。