高校時代、野球部のFくんは超モテモテであった。
バレンタインデーの日、そりゃあアナタ、
Fくんは手提げの大きな紙袋いっぱいのチョコレートを持って寮に帰って来た。
その数、実に数十個であった。


「 みんなで食べよう! 」って、気のいいFくんのおかげさまで僕らは、いろんなチョコを食べられたものだ。


わっはっは、美味しいな〜っ、
嬉しいな〜っ、ありがとな〜って、ね、
僕なんかはただ単純に大喜びでモグモグムシャムシャ食べていたのだけれど、
気付くと、
その中で一人、Mくんは泣いていた。
「 ・・・、情けないっ。 」って泣いていた。


だったら食わなきゃいいのに、って、アナタは思うかい?
そう思えるアナタはきっと、モテていた男なんじゃないの?


想いを馳せておくんなさいよ、
チョコを一個ももらえなくてガッカリしていて、
その夜に寮でモテモテのヤツからお裾分けして頂いたチョコを食べて泣いちゃった少年の気持ちに想いを馳せておくんなさい。
それが男の優しさというものなんじゃないだろうか・・・。


Mくんの涙を見ながら食べたチョコは苦かった。
甘くもあり苦くもあるのがチョコレートなりけり。
そう感じた16歳の冬の夜であった・・・。
きちんと歯を磨いてから寝ろよ。


僕もB級男子であったが、
もらったチョコはゼロではなかった。
オフクロと妹(当時3歳)から宅急便で寮にチョコが届いていたんだもんね。


まあな、いろいろな青春があるって事よ。
うんうん、うんうん・・・。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


昨年の50歳同窓会で、
「 おおお〜っ、逢いたかったぞ! 」って、
僕を見るなりハグしてくれたFくんは相変わらずのナイスガイであり、
同じくハグしてくれたMくんは未だ独身であった。


まあな、人生もまたいろいろさ。


チ・ヨ・コ・レ〜ト。


A級男子もB級男子も、
ただ等しくオッサンになっているのであった。


だからいいや、生きていることを楽しもう。