「 悪いっ、父さん、1枚だけ印刷をさせて。 」
と、言うや否やのアズ・スーン・アズ、
息子は僕のパソコンにメモリーを差し込んでプリンターをONにした。
ガガガッと本当に1枚だけを印刷して、
「 ありがとう、助かったよ。 」と僕の仕事部屋を出て行った。


お〜いっ、データ消してから行け!と僕は言いつつ、
画面を見るとそこには 疥癬虫 に関する文章があった・・・。


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疥癬虫 だな、疥癬虫・・・、
たぶん、皮膚科の実習で学んでいるのかもしれないよ、疥癬虫・・・。
そのデータを消すために仕事部屋に戻って来た息子に僕は話して聞かせた・・・。
僕が知る 疥癬虫 の恐ろしさを・・・。


父ちゃんが高校時代を過ごした寮でな、疥癬虫 は猛威をふるったぞ、と言うと、
「 えええっ、現代の日本に於いてか! 」と、息子は驚いていた・・・。


30数年前の僕の高校時代をだな、現代日本と言えるだろうかとは思えるのだが、
ああ、ハッキリと覚えているぞ、
疥癬に罹患した仲間たちは隔離され、
風呂に連れて行かれて裸で全員並ばされ、
白衣を着た保健所の人から何らかの薬剤を噴霧された・・・。
(その薬剤がDDTだったかどうかは不明。)


僕らの寮は設計ミスにより、南側の部屋と北側の部屋に別れており、
疥癬虫に喰われた仲間は皆、北側の住人たちであったと記憶している・・・。
要するに不潔だったって事よ、思春期バリバリ高校男子は・・・。


皮膚の表面にモグラのトンネルのように、なあ、
疥癬虫が移動した後が残っている仲間の皮膚を父ちゃんは幾つも見た。
そして、
皮膚を見て父ちゃんは数えた、
ひ〜・ふ〜・み〜ってな・・・。


そこまで説明したところで息子は仕事部屋を出て行った。
皮膚だけに ひ〜・ふ〜・み〜 ってダジャレはストライクゾーンを外したってワケだ。


まあいいや、許そう。
親父ギャグは当たる日もありゃ外す日もある・・・。


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疥癬虫だけじゃない・・・、
実は、
頭に付くタイプの毛ジラミも発生していた・・・。
髪の毛タイプの毛ジラミは1980年代日本に於いては既に希少種だったので、
これは研究用にと採取されたのだった・・・。


この毛ジラミの被害に遭った某くんは、
50歳大同窓会の折には髪の毛そのものが消失していて、
僕は、
もうこんなオヤジになっちまって、と言ったのだが、
それを、
毛根無いオヤジになっちまって、と聞き間違えられて怒られた。


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要するに、
清潔に暮らしましょうって事よ、きっと・・・。


息子はその後、メモリースティックを紛失した・・・。
オヤジのパソコンをアテにし過ぎているからだと思う・・・。