真剣ゼミ

小川監督に頼まれ、ハヤトをバッティングセンターに連れて行った。こうやまドラゴンズなんちゃって、な。

我々みたいな親子連れがいっぱいいた。みんな自分の息子が打っている間、ずーっと檄をとばしている。「何度言ったらわかるんだ!」とか、とにかくすごい。自分が果たせなかった夢を息子に託す熱血父ちゃんって感じで、いい。息子たちも皆、真剣そのもの。真剣ゼミってか。

こうやまは定速で球数の多い左打席が有る。ハヤトはもっぱら、ここ。

スコーン、スコーンと本当に気持ちよさそうに打っている。
ワシも他の親父みたいに何か言わなくてはカッコ悪いのだ。みんな見てるのだ。
とりあえず「ポイント前で!」と「顔を残せ!」と「左肩下がってるぞ!」の三つのセリフを順番に言うことにした。とてもキンチョーした。

ハヤトは一度、ワシの方を向いてニヤッと笑った。自分の親父の現在置かれている立場が解っているのだ。

一人のお父さんがワシに声をかけてきた。「いいですね。うらやましい。本当にリストが柔らかい。どちらのチームですか?」

げ!リストって何だ?

「小山ドラゴンズです。」「じゃあ東西であたるかもしれませんね。」ですと。
準決勝で対戦するかものチームのお父さんコーチだった。

帰りの車の中、「なんでオレが疲れてないのに父さんが疲れてるんだ?」だと。
大人はなぁ、たいへんなんだよ。

リストって何だ?メンバー表の事か?
「たぶん、手首の事だと思うよ。」

ハヤト、お前、頭いいなー。