あれから10年

今を大切に生きる。刹那的にではなく、しっかりと。
僕の人生の最大の信条。これを教えてくれたのは大切な大先輩、J,Y氏。
1995年1月17日、阪神淡路大震災。先輩の自宅は西宮にあった。活断層の上にあった。全壊。先輩と奥さんと2人の娘さんは無事だったが、10歳のご長男は亡くなられた。瓦礫の中で見つけた時にはもう、亡くなっていたと聞く。

その年の3月、八王子で先輩に会った。掛ける言葉が見つからなかった。
地震のおこる前夜、先輩は自宅で大切な仕事の書類を作っていた。お父さん遊んでよ、と息子さんはせがんでいたと言う。お父さんは忙しいんだ、明日にしてくれよ、早く寝なさい。
それが親子の最後の会話だった。
「来ない明日だってあるんだぜ。・・・今を大切に生きろよ」

重たい言葉だった。

その夜、帰宅後の寝室。カミさんと娘は熟睡。眼が覚めてしまったハヤトが僕に気付き、ヨチヨチと歩いてきた。
1歳ちょっとのハヤトを抱きあげた。
思わずボロボロと涙があふれて止まらなくなってしまった。

来ないかもしれない明日だってある。
だから今日を大切に生きよう。

あれから10年が経つ。大切な宝ものを失った人たちの心の傷や悲しみはまだ癒えていない。