アントニオ命

去年のある日、ハヤトが一羽の黒い鳥を抱えて下校してきた。
事情を聞くと、巣立ちに失敗した若鳥のようだった。
猫にでも襲われたら大変だと、見るに見かねて連れて帰ってきた。

「きっと親鳥が心配してさがしてるぞ」
案の定、我が家の庭の木に親鳥が来て大きな声で鳴いていた。
「よかったね、お母さんが迎えに来たよ。」ハヤトは若鳥に言って窓を開けた。
一件落着かと思いきやダメだった。飛べない。まったく見事に飛べない。
羽ばたきながら地面を走る。
気の毒だけれどアニメの「ロードランナー」みたいで笑ってしまった。
やっとの思いで捕まえてもう一度保護した。


「どうしよう・・・・・。」
市役所に電話で問い合わせてみたが、つれない返事だった。
いわく、放っておいて下さいと・・・・・・。
自然の中ではそれが淘汰であるのだから・・・と。


それも解る。けれどもハヤトの気持ちを考えるとそれは出来なかった。
物置から古い鳥籠を出して、小さな扉を外した。
ロードランナーを入れて木に吊るしてみた。


感動的だった。まるで新しい巣のように親鳥が餌を獲って来ては与えていた。
こんな小さい鳥にも心がある。上手く説明できないけれど、親鳥の姿に感動した。
感受性豊かな男だなー。ワシって親父は。


自分の子供を虐待する人間よりも
よっぽど心豊かであたたかいぞ!親鳥!


先日、ワシの後輩の話。
彼もまた人相の悪い、一見恐い男だが、とても子煩悩だ。
彼は今年4歳になる息子がいる。その息子を溺愛している。そのせいで彼のセガレは甘えん坊将軍で泣き虫だ。
ある日、彼は息子と風呂に入っていた。
シャンプー嫌いの息子の頭を洗っている時に事件はおきた。
シャンプーハットをしているくせにコセガレは泣き始めた。
彼は無視して頭を洗い続けた。ゴシゴシごしごし・・・・・・。
泣き声は次第に大きくなっていった・・・・・・・・。
「ごめんなさーいっ!」
「うわーん!うわーん!」
「もうヤだぁーっ!うわぁーん!」
「たすけてー!たすけてくださーいっ!」
「ぎやぁぁぁっ!」
その時、彼の家のインターホンが鳴った。


おまわりさんと近所のおばさんが立っていた。


その数分後。
ひたすら事情を説明する彼の奥さん。
腰にバスタオルを巻いて頭を下げている彼・・・・・・・。


ワシは思う。いいご近所さんだと。人間関係が希薄なご時世に・・・。
ありがたいことだ。と。


それ以降、彼の息子はシャンプーで泣かなくなった。
大好きなお父さんが逮捕されちゃう!と、相当ショックを受けたみたいだ。


めでたしめでたし。ってか?ありり?


彼は胸を張る。
自分の子育ては成功しつつある。と。


でもニャー。ワシはあの親鳥の方が・・・・・・
この後輩より偉いと思うんだけれどな。