金色夜叉だけが熱海の月じゃない
「勝っちゃん・・・。なにがあっても野球を続けて下さい。・・・
・・勝男。勝つ男・・・・いい名前です。」
これは大杉勝男に送られた、兄からの最後の手紙の一節。
弟の才能を信じ、苦しい生活の中を更に切り詰めて、野球道具を送り続けた兄がいた。
だが・・・、その兄は病に倒れ、亡くなる。
東映フライヤーズの熱海キャンプ。
若き日の大杉にむけて、打撃コーチがアドバイスを送った。
「大杉よ、あの月に向かって打て!」
極端なまでのアッパースイング。
信じられないほどの長打力。
夜空に輝く月には兄がいる。大好きだった兄がいると信じていた。
俺のホームランを届けよう。兄は一番喜んでくれるはずだ。
通算本塁打数 496本。
496個のボールが天空の月に今も転がっている。
セ・リーグでは199本。両リーグにおいての200本塁打の夢は叶わなかった。
引退試合でのインタビューがカッコよかった。
「最後の1本は皆さんの夢の中で打ちます!」
日本の球界に壮大でロマンチックな一遍の詩を残し、僅か47歳で逝く。天空の月へ昇る。
遠い月から見ている。
夜、素振りをする子供たちの姿を見守っている。
大杉勝男。野球の神様