いつかの少年

hayatonooyaji2005-12-03

我が家の前を流れる川の向こう岸から、灯りが見えて音が聞こえる。
夜、ハヤトが素振りをしている時に。
定時制高校の部活動の時間なのか・・・・。


煌々とグラウンドを照らす灯り。
黒目川の水面に映り、ゆらゆら揺れる。
心地よい打球音が夜空に響く。


向こう岸の灯りの下で、ひたすら白球を打つ少年がいる。
夢を見よう。夢を見よう。終わりの無い夢を見よう。
打て。遠くへ打て。強く打て。高く打て。
照明よりも高い暗闇へ向かって。ひたすら打て!
暗闇の向こう側。輝く月に向かって打て!


月にホームランを届けよう。
大杉勝男が待っている月へ。


「お父さん、いい音だね。」
素振りをしながらハヤトは彼の打球音を聞く。
名前も顔も知らない高校生の、美しい打球音。
息子は彼の打球音に、自分の夢をそっと重ねる。


野球が好きな少年たちの、抱く夢のカタチは同じ。
僕は彼らの夢を美しいと思う。


小さな子供たちの悲しいニュースが流れてくる。
はらわたが煮えくり返る程、悲しい僕たちの時代に。


野球少年たちの輝く汗だけが救い。


打球音よ、夜空に響け!
煌々とグラウンドを照らす灯り。
水面に映り、光り、ゆらゆら揺れる。