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ブレッド&バターが唄う、「あの頃のまま」・・・。
停車中の車のラジオから流れてきた・・・。
・・・十八時のターミナルで、振り向いた君は、板についた紺色のスーツ・・・
ユーミンが作った歌。
哀しくて切ない歌詞。
夢とかシアワセとか、誰もが失くしたくなかった気持ちを唄っている。
この歌に出てくる「ダメな男」の典型のような僕だ。
たわいのない夢すら捨てられずに生きている40歳だ。
いつもならね、この曲のイントロが流れてきた時にはすぐにラジオのスイッチを切っているのだけれど。
今日はラジオのスイッチを切れずにいた。
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駅の向こう側。
娘が通う進学塾の前にて。
こんなにも夜遅く、
灰色のビルディングの前に並んだ自転車たち。
その光景を見ながら僕は、
どうしてもラジオのスイッチを切ることが出来なかった。
ブレッド&バター・・・。「あの頃のまま」・・・。
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進学塾・・・。
中学3年生。受験生の彼女は、自ら希望して通っている。
僕には不本意。
笑わないでほしい。送り迎えをしている・・・。
心の中で、お父さんは君を、ずっとずっと抱きしめているぞ!ってメッセージを伝えたいから・・・。
「抱っこちて〜」なんてね、ちっちゃかった頃の娘は、いつも僕にまとわりついていた。
子供が幾つになっても、親の心は変わらないんだろうな・・・。
こんなにも夜遅くまで、娘よ、君は何を学んでいるのだろう・・・。
少し前、まだ春浅い頃、
オーバーを着て手袋をした受験生の女の子たちを見た時、
感じた切ない気持ち。
自分の娘ならばなおさら・・・。
灰色のコンクリートのビル。
進学塾の教室の中、
無機質な時間に蝕まれていないだろうか・・・。
ずらっと並んだ自転車。
静かに子供たちを待っている。
誰かと自分を比較するな。絶対に比較するなよ!いいか?
中学生。
中学生なんだけれど・・・、
心の中でずっと、「抱っこ」してあげなければいけないような気がしてならない。
定期的な試験の結果を、僕は一切聞かないでいる。
誰が何番だなんてね、僕に言わせれば意味の無いこと。
ごめんよ。懸命に頑張っている君の姿だけをね、僕は胸に焼き付けるから・・・。
君は僕の宝なんだよ。君の素晴らしさなら僕が一番知っているよ。
誰かと比較しての素晴らしさなんてね、僕にとっては意味の無いことなんだ・・・。
どんな子供だって素晴らしさがある。
その素晴らしさは5段階でなんて評価出来るはずがない。
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絵を描いたり、詩を書いたり・・・、
ワクワクした表情で本を読む君の姿が好き。
それが一番大切なことなんだって僕は思うのだけれど・・・。
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フォー・ユアー・セルフ
フォー・ユアー・セルフ
そらさないでおくれよ、その瞳を
人は自分を生きていくのだから・・・
フォー・マイ・セルフ
フォー・マイ・セルフ
シアワセのカタチにこだわらずに
人は自分を生きていくのだから・・・
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灰色のビルから子供たちが出てきた。
いいかい?みんな・・・、
奪われるなよ。見失うなよ。
非力だけれど、僕はずっと信じている。
君たちの強さを信じている。
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いちばん大切なことを学んでほしいんだ。
君は君の人生を生きていくのだから。
シアワセのカタチにこだわらなくていい。
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