アンパイア

その少年が打った球は、打ち損じのゴロだった。
でも、彼は全力で走った。
ありったけの力で、カッと目を開きながら、
彼は走った。


遊撃手の少年もまた、真剣な表情でゴロをさばく。
しっかりとステップを踏み、1塁手へ投げる。
投げた後の、彼の祈るような瞳も眩しい。


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アウト!
そして試合終了。


1塁ベースを駆け抜けたんだ。
君はしっかりと駆け抜けたんだ。


いいかい?君は夏を駆け抜けた。
全力疾走でね。


君は夏の空を仰ぐ。
中学3年生の空を仰ぐ。


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君は泣いていた。
強く握りしめた拳で涙を拭っていた。


君は涙を振り払おうとするのだけれど、
溢れ続ける涙がポタポタと落ちる。


恥ずかしくなんかないよ。
たくさんたくさん泣きなさい。


だって君は、君の夏を走り抜けたんだからね・・・。


本当は君の肩を抱いて、頭を撫でてあげたい。
偉かったぞ!強かったぞ!って。
たくさんたくさん泣きなさいって。


流れ落ちる涙、
それはね、がんばった証拠。


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中学3年生。
まだまだこれから!
これで終わるわけじゃないんだ。


今、この瞬間から始まる夢がある。


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夏の陽射しが君の瞳に映る。


僕は君からもらったよ。
宝物のような気持ちをもらったよ・・・。


ありがとうな、
野球小僧。