危惧するべきこと

手元に、金田信一郎氏が書かれた渾身のルポルタージュがある。
しばらくの間、ある雑誌に連載されていた物なのだけれど。
タイトルは、「地獄から生還した男・立花龍司」・・・。


野球選手の肩や肘、あらゆる怪我や故障について考える時に、
現在の野球界に於いて欠かすことの出来ない人物、立花龍司さんを主人公にしたルポルタージュである。


その中に、こんな記述がある。
1998年、春。
現在も語り草になっている甲子園の名勝負。
「横浜対PL学園」
延長17回を投げ抜いたのは、そう、松坂大輔・・・。


テレビドキュメントまで製作された試合を、まったく違う目線で見ていた男がいた。


移動中のバスの中で、テレビのブラウン管を食い入るように見ていたのは、
ロッテの外国人ストッパー、ブライアン・ウォーレンだった。
彼は突然立ち上がり、立花のもとに駆け寄った。
そして言う。
「タチ!あいつを止めろ!今すぐ電話して投げるのを止めさせるんだ!」


連投につぐ連投。
完成していない体を酷使する高校野球
それを美化するマスコミ・・・。


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今、僕はスクラップしていた記事を読みながら考えている。
「日本式野球道」が奪ってきた、多くの子供たちの「夢」や「誇り」を・・・。
潰してきた「夢」や「誇り」を・・・。


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ポニーリーグの厳格なる投球数制限、イニング制限・・・。
やはり、それは、子供たちを守ってきた証拠だ・・・。
思うんだよ、僕は・・・。
日本にポニーリーグが存在していることは奇跡なんだ・・・。


野球の好きな少年たちから奪わない。
ポニーは「夢」や「誇り」を決して奪わないんだ・・・。


多くの人にね、僕はポニーを知ってほしい。

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第88回、夏の甲子園は・・・、
史上初、2校が優勝した。


駒大苫小牧、そして早稲田実業・・・。
両校の選手諸君!
優勝おめでとう!


斉藤くん、田中くん・・・、
最後まで全力投球・・・。
大丈夫?
ほんとうに大丈夫かい?


肩は痛くない?
肘は痛くないかい?


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斉藤くん、
僕はね、心配しているんだ・・・。
ものすごく恐いんだよ・・・。


君の連投は無謀だった。
君が投げる姿を見ながら泣けて仕方なかったんだよ・・・。
ごめんね。
もう投げなくていいよ!って、ね、祈りながらテレビを見ていたんだ。


肘は?肩は?
本当に痛くないかい?


桜花


今の君を見ていると悲しい。


桜花を思ってしまうんだ・・・。


現在、日本中の人々が君を賛美している。
まるで桜の花びらを愛でるようにね・・・。


ごめんね。
連投を続ける君の姿は痛かったんだ・・・。


君を英雄視するような論調こそ、僕らは恐れなければならない事なんだ・・・。


ごめんね、斉藤くん。
本当にごめんね・・・。


君だってさ、野球が大好きなだけの少年なのに、ね。
君は君の野球をしていただけなのに・・・ね。


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月曜日、
甲子園には、ね、
野球の神様の息吹はなかった・・・。


悲しい野球を見た。


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