入口のない海

「今の球は俺の夢だ!」


映画、出口のない海のコマーシャルが流れている・・・。
多くの人々に観てほしい映画だ・・・。


本当にあったんだ。こんな時代が・・・。
尊い夢を断ち切られた野球少年の姿が痛い。


「人間魚雷・回天」
それはなんて残酷な兵器なんだろう・・・。


知覧で見た若者たちの顔を思い出す。
ひたむきで純粋で誠実な瞳をしていた。
ひたむきで純粋で誠実だった若者たちを、死に追いやった者は誰だ?
野球少年の掌から、白球を奪った者は誰だ?


出口のない海
なんて悲しい海なんだろう。
そんな悲しい海は要らない。


入口のない海を作ろう。


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それは僕が中学1年生の時の事。
飛行機が好きだった僕は、
当時全盛だったハセガワ製のプラモデルを作った。
「一式陸上攻撃機
パッケージに書かれていたんだ。
「人間魚雷・回天付き」って・・・。


セメダイン、パテ、紙ヤスリ。
塗装も丁寧に仕上げた。


組み立て説明書にね、色も書かれていた。
「回天」の色は、明灰白色だった。


まだ僕は子供だったんだな。
ただ上手にプラモデルが作れた事がうれしかった。


でもね、はっきりと憶えているんだ。
明灰白色・・・。
なんて悲しい色なんだろうって思った事を。


明灰白色。
当時、海軍の飛行機のお腹の部分に塗られていた色。
空にカモフラージュするための色だったらしい。


戦争の時代、
空はこんなにも悲しい色をしていたんだね。


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「回天」も明灰白色。
出口のない海も悲しい色だったんだね。


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瀬戸内寂聴さんが言っていた。
「今の日本はね、戦争へ向かって行った昭和18年頃の状況と酷似しています。とても恐い。」


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出口のない海へ野球少年を送ってはならない。
入口のない海を作らなければ。


空も海も明灰白色にしてはならない。
空はスカイブルー。
海はマリンブルー。
ブルブル。そっちの方がいいのだ。


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「今の球は俺の夢だ!」
そんな最後の言葉を言わせてはならない。


次の球も君の夢だ!
次の次の球だって君の夢だ!
次の次の次の球だって君の夢だ!


野球少年たち、
この映画を観てほしい。

そして、野球の出来る喜びを感じてほしい。

真っ赤なユデダコみたいな顔をして、
偉そうな事を言って恐縮だけれど・・・。