放課後、ハヤトは部屋で碁盤を磨いていた。
乾いたタオルでゴシゴシ・キュッキュッ。
碁盤はね、宝物。爺ちゃんの形見。(コラ!まだ生きているぞーい!)
いい木目。いい感じの光沢・・・。


この男、ポニーリーガーなのだけれど、学校では囲碁将棋部・・・。
以後、よろしく!夜露死苦!46−49!イェーイ!


よう、ハヤト。
碁盤はな、とてもいい匂いがするぞ。嗅いでごらん・・・。
な、その香りがな、シャネルの碁盤だ。
マリリンモンローが愛した香りなのさ。


碁盤ばかりを売っている街があるんだぜ。
碁盤街だ。
唄だってあるんだぜ。
「碁盤街のマリーへ」ってタイトルさ。
聴いてみたいだろ?よじ!父さんが唄ってやろう・・・。


〜碁盤、買いに行ったならばー ジョニーの店へ行けー〜


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


禅の本を読んでいたり、碁の定石を勉強していたり、
それはとてもいい事だと思うよ・・・。
心のトレーニングだ・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


父さんがうれしいなって思う事があるんだ・・・。
君が学校でさ、大尊敬している野球小僧の先輩なら知っていたさ。
「15歳のドラゴン」こと、Rくん(Kリトルシニア)だよな・・・。
もちろん!父さんだって願うよ。彼のような男になってほしいもんね。君にさ。
心も身体も・・・。


その一方で。
囲碁将棋部の先輩(まるっきり野球小僧たちとはね、タイプが違うんだけれど。)の事も、
君は尊敬してくれていた!って事がね、父さんはうれしかったんだよ・・・。


学ぼうな。勉強だけじゃないんだ・・・。
大切な事をさ、あらゆる場面で学ぼうな・・・。
いろんな世界でがんばってきた先輩たちの姿からさ、
たくさんたくさん学ぼうな・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


少年野球の目的について・・・。


昨日、就任した八景監督が言っていた・・・。


あまりにも見事にね、少年野球の目的について語っていた・・・。
その言葉に、僕は深く感銘を受けた・・・。


「少年野球の目的は、社会の役に立つ人材を育成する事です。
 その目的を達成するための手段として、野球があります。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


社会の役に立つ人材とは何か?


僕は、オーバーヒート寸前の頭で考えた・・・。


それはね、「誰かの痛みを感じる事の出来る人間」なのではないかと思う・・・。


現在、僕らが生きている時代の中で、ね・・・。


野球を通じて、そんな心を学べるのであるならば、これ以上のシアワセはない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「僕、野球ヲ習イタイノ・・・。」


小学校1年生のハヤトがね、今でも時々現れる。
僕の目の前に現れる・・・。


そうか・・・。
そうだったのか・・・。


ハヤトのチームメートたち。
先輩たち、後輩たち・・・。
対戦するチームのライバルたち・・・。


しっかりと野球を習ってほしい。


これから君たちが生きる時代はね、かわいそうだけれど悲しい時代だ。


だからこそ、しっかりと野球を学んでほしいんだよ・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


誰かの痛みに涙するような心を持ってほしい。


不条理に怒りを持てる人間になってほしい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


野球少年たちの瞳は、悲しい位に真っ直ぐだ・・・。


僕は、そんな子供たちを信じていよう・・・。