しば浜

う〜む・・・。
まただ・・・。またあの夢を見てしまった・・・。
僕が小学校2年生の時の出来事なんだけれど、何度も夢で見る・・・。
う〜む、これがトラウマってやつだろうか・・・。
現在の僕も、その頃の僕も、本質的にね、変化・成長していない証拠なのだろうか・・・。


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小さい頃から僕は、生き物を捕まえて飼うことが好きだった。
そんな僕のために、僕の親父はベランダに60センチ水槽をセットしてくれた。
ドジョウ、ザリガニ、オタマジャクシ、カエル、エビ・・・。
水槽が賑やかになる様子が本当に楽しかったっけ・・・。


そうそう、ちょうど第2グラウンドの辺りで捕まえていた・・・。
昔、第2グラウンドはね、田んぼだったんだぜ。
え?信じられないって?
本当さ。清瀬市でも僅かだけれど稲作をしていたんだよ・・・。
関越道を挟んだ向こう側、内山グラウンドになった所はね、錦鯉の養殖をしていた・・・。
用水路が縦横に走っていて、ミズカマキリタガメもいた・・・。
雨の翌日には、小さな錦鯉の赤ちゃんが逃げ出していて、僕は友達と一緒に網で捕まえたものだ・・・。


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ある日、僕は1人でドジョウを捕りに行った。
草を掻き分けて用水路の脇まで出た時、僕の足元でキラリと何かが光った。
よく見るとね、お金だったんだ・・・。
何気なく地面を軽く蹴ると、たくさんの小銭が埋まっていた・・・。


うっほほ〜い!♡
僕は、小躍りをして喜んだ。
友達と一緒に来なくて良かったニャ〜って思った。
やっぱりさ、大切なのは「ひとり力」なのよのさ。
僕は夢中で掘った。
まさしく小さなトレジャーハンターなり♡


♪おーばーん、こーばーんが、ザーックザーックザックザク〜♪


僕は唄いながら小銭を掘った。
100円玉、50円玉、10円玉・・・。
ビニール袋の中に入れた・・・。
ものすごい数の小銭だった・・・。


♪おーばーん、こーばーんが、ザーックザーックザックザク〜♪


今でもハッキリと憶えている。
あのビニール袋のズッシリとした重み・・・。


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家に帰り、勉強机の一番下の大きな引き出しの奥に、僕はビニール袋を入れた。
本当にシアワセな気分で夕飯を食べ、風呂に入り、眠りに就いた・・・。


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翌日、学校から帰ると、小銭たちの入ったビニール袋は消えていた・・・。


何気なくオフクロに聞いた。


ねぇ、お金のたくさん入ったビニール袋見なかった?


「え?何の事?知らないわよ。」


僕は泣いた。


「夢で見たんじゃないの?」


涙も枯れ果てた・・・。


絶対に夢じゃない。


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ハックション!
40歳になってまでも見る夢・・・。
夢でうなされ、寒さで目覚めた・・・。


この話は、ハクション(フィクション)ですってか?
それともノンハクション(ノンフィクション)なのか?



布団の中で口ずさむ・・・。
ママ〜・ドゥ・ユ・リメンバ〜
お母さん、あのビニール袋、何処にいってしまったんでしょうね・・・。


何で今でも見てしまうんだろう?
あの幼い日の夢・・・。


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落語の「しば浜」・・・。
僕は笑えないんだ・・・・。