無能の人
つげ義春さんの漫画を初めて読んだのは、高校生の時だった。
ものすごくシュールなんだけれど、むしろそこにリアリティを感じたものだ。
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寮生だった僕らにとって、自宅通学の同級生の存在はありがたかった。
高校生ともなれば、親の干渉も少ない。
それをいい事に、彼の部屋は僕たちの絶好の溜まり場になっていた。
放課後、グダグダと集まり漫画を読む。
漫画を読むだけ読んだらね、「じゃあな。」と帰る。
今にして思えば、最も嫌われちゃう友達のパターンだ・・・。
「ケーキをどうぞ。」なんてね、彼のお母さんは、お菓子を持ってきてくれたりもしていた。
漫画読み放題、ケーキに紅茶付き。
漫画喫茶なんて無かった時代の事。
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友達の本棚には、たくさんの漫画があった。
たしか、「ガロ」が創刊号から並んでいたっけ・・・。
正確に言えばね、彼のお父さんが集めていた物なんだけれど、かなり貴重なコレクションだと思う。
「ジャンプ」や「マガジン」、「サンデー」や「チャンピオン」とは違う、「ガロ」のサブカルチックな世界に、大人になりかけの高校生だった僕たちは、すっかりと魅了された。
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つげ義春さんの作品は、「ガロ」の中でもとても強く印象に残っている。
シュールな裏にあるリアリティは、示唆に富んだ物ばかりだった。
「無能の人」
竹中直人さんが映画化しているので、そちらをご覧になった人の方が多いかもしれない。
川原に掘っ立て小屋の店を構えて、そこで拾った石を売る男の物語だ。
彼には妻子がある。
乏しいながらも家族仲良く暮らしている。
つらい事も悲しい事もあるんだけれど、結局は人生を存分に味わいながら生きていく。
大人が読む寓話。
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ふと思う。
川原の石を売る行為とは、経済そのものではないか?
無限の生産と消費を繰り返し続けている経済を比喩しているのではないだろうか?
ひょっとしたらね、僕も、そして誰もが、「無能の人」?
面白い形の石を探す。
綺麗な色の石を探す。
漬物石みたいにね、役に立つ石だって探す。
背広を着て探す人もいる。
作業服を着て探す人もいる。
満員電車に乗って探しに行く人もいる。
工事現場で汗を流しながら探している人もいる。
すべてが尊く愛しいものだ。
シアワセ・・・。
仲良く暮らす家族がある。
愛すべき伴侶がある。
慈しむ子供がある。
信頼に足る友がある。
シアワセ・・・。
それを存分に味わいながら生きるべきだと、「無能の人」は言う。
竹中版の映画では、「峠の我が家」がテーマ曲として使われていた。
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うわっ!
ついダラダラと長く書いてしまった!申し訳ない!
ほーれ、難しい事を書くとね、頭から湯気が出る・・・。
やっぱり僕も、「無能の人」・・・。
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てくてく・てくてく・・・。
犬の散歩中に見つけた看板・・・。
「無能薬 三宝柑 3個で200円」
うむ。
無能薬って言葉に惹かれた。
そして「無能の人」を思い出したんだ・・・。
無能薬なんだよ、三宝柑は・・・。
時期が来たらね、絶対に買って食べてみたい・・・。
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無能人、無能薬を知る。
合掌・・・。
しかし紛らわしい・・・。
「無農薬 三宝柑」だと勘違いしちゃいそうになる。
うむ。勘違い平行棒だ・・・。
あぶないあぶない
ぎりぎりセーフ!