雨の午後。
車を運転しながらの帰途、メインの道路が渋滞していたので、久しぶりに小山の細い裏道を抜けた。
小さな踏切を渡り、角をいくつか曲がる。
ふっと視界が広がる所がある。
そこが、「小山・森の広場」。通称、芝生の公園・・・。
細い道を運転する事があまり好きではない僕にとって、今では滅多に来る機会の無い場所・・・。
でもね、とても懐かしい場所・・・。


僕は、しばし車を停めて、雨にけむる公園の様子を眺めていた・・・。


つい昨日の事のように思えてならない。
平日の夕刻、ここで毎日練習をしていたハヤトと仲間たちの姿・・・。
小さな野球少年たちの姿・・・。
ビニールシートを敷き、そこにリュックと水筒を置き、懸命に野球に取り組んでいた姿・・・。


小さかった。
みんな小さかった。
けれど、みんながんばっていた。
みんな野球が好きだった。


少しずつ雨に濡れた芝生は緑を増していた。
あまりにもリアルにあの頃の子供たちの姿が浮かぶ・・・。
夏、汗ぐっしょりになったTシャツと笑顔・・・。
冬、鼻水がカピカピに乾いた真っ赤なほっぺた・・・。
みんな真剣だった。
たった一度も優勝出来なかったチームだったけれど・・・。
みんな野球が好きだった。


時々、今もなお僕の夢の中に、小学校1年生のハヤトがやって来る。
ダブダブの真新しい小山ドラゴンズのユニフォームを着たハヤトがやって来る。
ちっちゃなハヤトは笑顔で僕に言う、
「オ父サン、野球ヲ習ワセテクレテアリガトウ!野球ハ楽シイヨ。」
僕は、夢の中のハヤトをいつもいつも抱きしめている。


野球少年を持つ親父、或いは野球少年だったセガレを持つ親父なら、
誰だって解ってくれると思う。
生まれて初めてのユニフォームを着た笑顔のセガレたちが、夢の中にやって来るんじゃないかと思う。
誰だって抱きしめているんじゃないかと僕は思う。
僕らは野球少年の親父・・・。


雨にけむる芝生の公園。
あの日の子供たち・・・。


「イーチ、ニーイ・・・」
どこからか、彼らの声が聞こえた・・・。


リュックとバットを背負った姿が見えた・・・。


僕はゴシゴシと目をこする。
リュックとバットを背負った彼らの姿は消えた・・・。


いつの日か、あの子供たちがね、僕の夢の中にやって来るだろう・・・。
僕は、1人残らず彼らの頭を撫でて、ギュっと抱きしめてやる・・・。
野球、好きだよな。
いつまでもさ、野球を好きでいてくれるよな・・・。


雨にけむる芝生の公園。
誰もいない・・・。