夏の夜

夜になってもセミが鳴いている・・・。
耳をすまして聞いてみると面白いんだよ・・・。
ジージーと鳴いているのがね、アブラゼミ・・・。
うむ、脂っぽいセミだな、人間にたとえたら僕らのような親父のセミだ。
シャーシャーと鳴くのがクマゼミ・・・。
人間にたとえたらクマおじさんだな・・・。
現在、愛すべきクマおじさんはね、奥さんの田舎に帰省中だ・・・。
そのせいだろうか、東京は若干湿度が下がっている・・・。
カナカナカナと鳴いているのはヒグラシかなかな?・・・なんちゃってな。
その日暮らしの僕が言うのも恐縮だけれど、ヒグラシの声っていいよね・・・。


クーラーを消す。
網戸をくぐり抜ける風は、まだまだ夏の匂いだ・・・。


そうそう・・・、
雑木林がまたひとつ消えた・・・。
だだっ広い空き地に姿を変えていた・・・。
二年ほど前、ハヤトと一緒にクワガタ虫を採ったクヌギも消えた・・・。


クヌギに登ったハヤトを、僕は落ちていた枝で下から突いて楽しんだものだ。
つん・つん・つんつくつん・・・。
「わぁ!やめて!やめて!」
声変わり前のハヤトの声がなつかしい。


町は少しずつ姿を変える。
思い出ばかりが増えていく。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


河童のクウの映画を観に行こうと思う。
夏休みの最後に家族で行こうと思う。
僕らの町が舞台になっているそうだ。
いつも犬と一緒に散歩をしている大好きな風景がね、
どんな風にアニメーションで描かれているのか楽しみだ・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


町は少しずつ姿を変えるけれど、
きっと変わらない景色だってあるだろう・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


午後11時。
セミの声が聞こえなくなった。


これを専門用語でね、セミリタイアと言う(か、どうかは不明)。