たぶん昔、百万本のバラを贈ったんだろうな。

hayatonooyaji2008-03-18

平日だったのだけれどカミさんと二人、千葉県の酒々井町へ行った。
「オジチャンとオバチャン」に会いに行った。
「オジチャンとオバチャン」と言っても、親戚ではないんだ。
「オジチャンとオバチャン」は、僕ら夫婦の仲人・・・。


今ではすっかり高名な画家になってしまった「オジチャン」なのだけれど、
僕からすれば、ずっと、「オジチャン」のまんまだ・・・。


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清瀬第2グラウンドが、まだ、田んぼだった時代の話だ。
小学校に上がる以前の小さな僕は、オジチャンとよく虫を採りに出掛けた。
当時、オジチャンとオバチャンも同じ、僕が育った旭が丘団地に住んでいた。
いつもベレー帽を被り、オジチャンは近所の子供たちと遊んでいた・・・。
僕もその中の一人だったのだけれど、いろいろな遊びを教えてくれたりして、振り返り思い出せばオジチャンは、良き大人だったのだと思える。
昔、子供たちの近くには、こんな良き大人がいてくれたんだ・・・。
自分たちの子供がいなかったオジチャンとオバチャン夫婦は、どんな想いで僕たちと接してくれていたのだろうと考えると、今、ちょっぴり切ない・・・。


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絵描きさん・・・。
オジチャンは自分の職業を、そう言っていた・・・。
一番好きなことを仕事にすればいいんだって、その時に僕は教わったような気がする。
今を大切にして、明日に悔いを残さないような生き方とか、どんなに小さくてもいいからシアワセを探そうといった前向きな生き方は、この頃のオジチャンが僕の心の中に植え付けてくれたものだ・・・。


オジチャンに絵を習った・・・。
ちっとも上手にならなかったけれど・・・。


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オジチャンの書く絵は、精緻なタッチの昆虫の絵が多い・・・。
だから平日の真昼間から僕を連れて、昆虫採集に出掛けていたんだ・・・。
今なお清瀬第2グラウンド周辺は、自然に溢れているけれど、昔はね、もっともっとスゴかったんだぜ。
いろんな昆虫も、ドジョウもエビもザリガニも、命があって精一杯生きている。
小さな命の尊さや、それらの不思議な生態も、たくさんたくさんオジチャンから学んだ・・・。


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オバチャンはよく、料理を食べさせてくれた・・・。
ルーから手作りするカレーは、美味しくて辛くて、とってもお洒落だった・・・。


オジチャンとオバチャンは、熱烈な恋愛結婚だったのだそうだ・・・。
まるで「百万本のバラ」の歌詩みたいな恋愛だったんじゃないだろうか?って、僕は想像している・・・。
まったくな、格好いいぞ!・・・オジチャンよ・・・。大統領っ!


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大人になった僕は、好きな女の子が出来て結婚する時、オジチャンとオバチャンに仲人をお願いした。
オジチャンとオバチャンのような夫婦になれればいいと思っている・・・。


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今、オバチャンはいない・・・。
いないのだけれど、いる・・・。
遺影は優しい表情をしているし、オジチャンが描いたオバチャンの横顔の絵は可愛らしかった・・・。
姿は見えないのだけれど、いる・・・。
ずっとオジチャンと一緒にいる・・・。


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「最後は家で、ずっとずっと一緒にたくさん話を出来たからね、ちっとも寂しくないんだよ・・・。」


痛がったり苦しんだりする事なく、静かに穏やかに逝ったそうだ。


小さなシアワセを探して積み重ねて、悔いを残さず生き抜く人の強さを見た・・・。
生き抜いた人の優しさを感じた・・・。


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僕はスーパーへ食料品の買出しに行った。
買い物リストに書かれている食材は、とってもシンプルでお洒落だ・・・。
カミさんは家の掃除と洗い物をした。
ひっきりなしに訪れる人たちの多さに驚いたそうだ・・・。


オジチャン&オバチャン・・・。
酒々井町に住んで20年・・・。
優しい町の人たちの中に溶け込み、そして慕われている様子がうれしい・・・。
ただただ僕はうれしい・・・。


そうそう、玄関にネームプレートが下がっていた。
そこにはね、「酒々井町、放課後教室スタッフ」とプリントされ、
オジチャンの名前が書かれていた・・・。


酒々井町の子供たち・・・。
このオジチャンはね、とっても素晴らしい先生だよ・・・。


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「長男夫婦が遊びに来てくれた。」


僕がスーパーへ行っている間に来たお客さんに、オジチャンは言っていたそうだ・・・。
カミさんがうれしそうに教えてくれた・・・。


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帰り際、不思議な事に、茶色い大きなバッタがいた・・・。
3月にバッタの成虫を見るのは初めてだ・・・。


オバチャンなのかもしれないな・・・。


そ〜っと指で触れてみた。
バッタはゆっくりと動いていた・・・。


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写真は、オジチャンが描いた本の中で、僕が一番好きな一冊だ。


そこにはね、こんな言葉が書かれている。

「生まれて死んで、また生まれる。」


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「ジャズのような詩を書いてごらん。」


オジチャンから僕は言われた・・・。
意味は解らないけれど、そう言ったオジチャンの顔は、
僕が子供だった頃にいろいろと教えてくれた顔と同じで、
とっても懐かしい気持ちになった・・・。