沖縄追記。

hayatonooyaji2008-04-01

沖縄からの帰りの飛行機・・・。
少しだけ早く座席に着いた僕は、荷物を抱えて乗り込んでくる人たちの顔を見ていた。
みんなシアワセそうな笑顔で、チケットと座席番号を照らし合わせながら歩いていた。


ふと、一人の男の子の姿が僕の目にとまった。
おそらく息子たちと同じような年代の男の子だ・・・。
ボストンレッドソックスの帽子をかぶり、スポーツ新聞を大事そうに抱えていた。
ただ彼は、とても痩せていて白く、大きなマスクを付けていた。
お父さんとお母さんと妹と、きっと楽しい沖縄旅行だったのだろう・・・。
家族そろってイイ笑顔だったんだ・・・。
彼は少し苦しそうな動作をして座席に着くと、すぐにスポーツ新聞を読み始めた・・・。
目をキラキラと輝かせて、野球の記事を本当に(それは、驚いてしまうほど)真剣に読んでいた。


野球が好きなんだね。
君も・・・。
野球が好きな子供の表情なら僕は、
横顔からでも見てとれる。


スポーツ新聞をめくる彼の手が、少しだけ不自由なことに気付く・・・。


彼は、再び真剣にメジャーリーグの記事を読む。
野球の記事を食い入るように見ている彼の、キラキラとした目が眩しい・・・。


ちょうどその時、息子たち清瀬ポニーの選手が機内に姿を現した・・・。
日に焼けて逞しく、そして満面に笑みを浮かべて・・・。


スポーツ新聞から目を離した男の子はね、ずっと息子たちを見つめていた・・・。
目を細め、やはり少し微笑みながら見つめていた・・・。


清瀬ポニーの13人は、その男の子の視線に気付いただろうか。
どうか気付いてあげていてほしいと願う。


野球に魅せられた少年の心は、誰だって等しく同じなのだと気付いておくれ・・・。


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僕は友達の中で、一番野球が下手くそな子供だった。
でも、野球が大好きだった。


その男の子の眼差しは、子供の頃の僕と同じに思えてならなかった。


野球が下手くそな子供が大人になった僕は、
野球が好きな子供の誰もが笑顔でいてほしいと願う。


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閉会式を終えた後のこと。
台湾チームを乗せたマイクロバスのエンジンが掛かる。
バスの中から台湾の野球少年が窓ガラス越しにね、こちらを見つめていた。


お母さんたちが清瀬の13人に言った・・・。
「ほら!しっかりと帽子を取って挨拶をしてあげなさい!」


キャプテン、リョウくんの肩は少し震えていた・・・。
「そんなこと出来ないよ。だってあいつらは泣いてる・・・。」


13人はマイクロバスに背中を向けてうつむいていた・・・。


優しい奴ら・・・。
優し過ぎた奴らだと僕は思う・・・。


でもね、知ってほしいんだ・・・。
本当の優しさはね、少しだけそれとは違う・・・。


総監督に促され、13人は並び、帽子を手に取って振る。
いつか必ず会おう!絶対に会おう!って・・・。


コザの球場の外、大きなガジュマルの木の前でUターンしたマイクロバスの中から、
台湾の野球少年たちも大きく手を振ってくれた。
きっと、ポロポロと涙は止まってなんかいなかっただろうけれど、
それでも大きく手を振っていたんだ・・・。


優しい少年たち・・・。
優し過ぎる少年たち・・・。
君たちが本当の優しさを知るのは、もう少し先の事かもしれないね・・・。


でも野球の神様は見てる。
真っ直ぐであれば必ず見守ってくれている。
今はね、ただそれだけを信じていればいい。


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飛行機は離陸する。
その少年はスポーツ新聞をたたむ。
そしてゆっくりと目を閉じた。


君も野球小僧だ・・・。


オジサンは、そう思う・・・。