リンダリンダ・・・困っちゃうな。
遅くまで起きて仕事をしていたので、朝、寝過ごしてしまった・・・。
すでにハヤトは自転車に乗って出掛けた後だった・・・。
「行って来ま〜す!」の声を聞く事が出来なくて、少しだけ損をしたような気分・・・。
おそらく、家を出発した時のハヤトの頭の中には、僕の存在なんて微塵も無かったに違いない・・・。
中学3年生ぐらいの少年にしてみれば、それはあたりまえの事だろう・・・。
父親の存在なんてな、所詮そんなものだ・・・。
思春期の息子と親父の関係なんてな、所詮そんなものだ・・・。
ちょびっと寂しいけれど、それでイイのだ・・・。
考えてみるがいい・・・。
野球へ出掛ける仕度を済ませたハヤトが僕の前に正座して、
「父上、これより私は野球に行って参ります。」とか言って、深々と御辞儀でもされちゃったら結構嫌だ。
父ちゃんの存在なんて忘れちゃうぐらいでちょうどいい・・・。
父親なんてそんなものだ。
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白ザリガニに餌をあげる・・・。
ピンセットで煮干のカケラをユラユラさせる。
白ザリくんは、両手のハサミを懸命に伸ばして上手に受け取ってくれる・・・。
そして、本当に美味しそうに食べるんだ・・・。
「わーい!ありがとう!」って言ってくれているみたいでカワイイ・・・。
でも、なんだかワビシイ・・・。
外は快晴、野球日和・・・。
だが、今日も僕は仕事だ・・・。
グラウンドに行きたいな・・・。
親父の仲間たちは元気だろうか?・・・。
・・・。
・・・、ザリガニ飼ってる場合じゃないんだよな・・・、僕。
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後でカミさんがグラウンドへ弁当を届けると言う・・・。
それ、僕に行かせてくれませんか?ってお願いする・・・。
10分でもいい・・・。
否、5分だけでもいい・・・。
グラウンドへ行かせてほしいんだ・・・。
グラウンドに吹く野球の風。
そして、野球の風にはためくポニーリーグの旗が見たいんだ・・・。
お願い!・・・愛してる!と、言わざるを得ないだろう・・・。
そんなにしてまで僕はグラウンドに行きたいんだよ・・・。
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息子の弁当を届けるという大義名分を得て、僕はグラウンドに立つ。
スー・ハー・スー・ハー・・・野球の空気を深呼吸した・・・。
胸の中がジ〜ンと熱くなる・・・。
大義名分と言うわりには、弁当と水筒を両手に持った情けない格好で恐縮なのだけれど、
やっぱりグラウンドはイイ・・・。
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グラウンドに吹く野球の風・・・。
硬球の乾いた打球音・・・。
ポニーリーグ関東連盟春季大会も、いよいよ第2ステージだ・・・。
熱い戦いが続いている!
立川ポニーVS鹿沼レッドソックス戦が始まろうとしている!
見逃せない好カードだ!
ものすごくラッキーなタイミングでグラウンドに来れた自分を褒めてあげたい!
カキーン!
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是非一度、ポニーリーグの試合を見て頂きたい・・・。
アグレッシブでパワフル・・・。
スピード感とスリルに溢れる野球の姿・・・。
中学生たちの躍動するプレーを・・・。
この投本間も塁間も、中学生たちが最高のプレーをするために計算された距離だ。
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カキーン!
グラウンドに吹く野球の風はシアワセだ!
わっはっは!
グラウンドに来て良かった。
心から思う・・・。
弁当を届けに来ただけなのだけれどな・・・。
カキーン!
フレー!フレー!鹿沼レッドソックス!
がんばれ!立川ポニー!
カキーン!
わっはっは!野球って最高!
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え?そんなに長居しても大丈夫なの?って?
仕事は平気?って?
・・・困っちゃう。