夢とかシアワセについて。

初めて息子とキャッチボールをした日・・・。
そうだよ、その時の気持ち・・・。
あの何とも言えぬ甘酸っぱい感覚と喜び・・・。
きっとね、それは僕たち、野球少年を持つ親父の誰もが共有している想いだろう・・・。


思い出してほしい。
その時の気持ちを、ね、たぶん、感動と呼ぶのだろうと僕は思う・・・。


無意識であったかもしれないけれど、
ボールを投げながら僕らは何かを伝えたはずだ・・・。
ちっちゃなちっちゃな頃の息子たちに・・・。


ちっちゃな息子が構えたちっちゃなグローブに、
僕は何を伝えたかったのだろう?


今、僕は、僕自身がそれを探しているところ・・・。


一番最初にハヤトが使っていた水色のグローブ・・・。
その水色の鮮やかさを、ハッキリと僕は思い出すのだ・・・。
その水色のちっちゃなグローブに向けて、
僕はボールを投げていたのだ・・・。


やさしく強く、強くやさしく・・・。
たしかに僕は、ちっちゃなC球を投げていたのだ・・・。


・・・野球ってさ、どうだい?とっても楽しいだろ?・・・
・・・友達ってさ、どうだい?とってもいいだろ?・・・
・・・みんなで力を合わせるんだぜ。・・・


・・・野球ってさ、みんなで力を合わせるんだ・・・
・・・どうだい?野球ってさ、とっても楽しいだろ?・・・


僕がちっちゃなC球に込めた想いは、たかだかそんなところだけなのだけれど・・・。


・・・一人ぼっちじゃない。・・・
・・・人間って、ね、誰だって一人ぼっちなんかじゃない・・・
・・・いいか?それだけは忘れないでいてくれ・・・


水色のグローブを構えたハヤトの表情は、
楽しそうにうれしそうに・・・、そして真剣だった・・・。


黒目川沿いにある遊歩道の芝生のスペース。
ずっと若かった僕と、ずっとずっとちっちゃかったハヤトがキャッチボールをしていた・・・。
楽しくてシアワセだった・・・。


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日曜日に秋葉原で起きた悲しい事件がある・・・。


痛む、痛む、
僕の胸は痛みの大きさに潰れてしまいそうになる・・・。


悲しすぎる・・・。


犯人よ、
君は、自分を一人ぼっちだと思っていたのかい?


それは、間違いだ・・・。


君は、ちっちゃな頃、
君のお父さんと一度だけでもいい・・・。
キャッチボールをした事は無かったのかい?


人間ってね、誰だって、どんな人だって、
シアワセになるために生まれてきたんだ・・・。


君が命を奪ってしまった人たちはみんな、
シアワセな人生を歩もうと務めていた人ばかりだったんだよ・・・。


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キャッチボールしようよ・・・。


大切な心を誰かと結ぼうよ・・・。


キャッチボールしようよ・・・。


ちっちゃなちっちゃな自分の子供と・・・。


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「オ父サ〜ン!キャッチボールシヨウ!」


僕の夢の中にはね、こうやってちっちゃなハヤトが遊びに来る・・・。
夢の中で僕は、ちっちゃなハヤトを抱きしめ、頬ずりをして、たくさんたくさんキャッチボールをする・・・。


僕は、きっと、シアワセだ・・・。


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時が過ぎて、
ハヤトが僕と同じ、42歳になったとしよう・・・。


おそらく不摂生な僕の事だ・・・。
たぶん、もう、この世にはいないだろうって思う・・・。


でもね、僕はハヤトの夢の中に現れるつもりだ・・・。


そう、僕の、正岡子規モデルのグローブとC球を持って・・・。


おい!
キャッチボールしようぜ!ってね、笑いながら・・・。


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ハヤトは翌朝、お嫁さんに言うだろうな・・・。


「夢の中に親父が出てきた・・・。
 相変わらず太っていた・・・。
 オレは手加減をしてキャッチボールをした・・・。」


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そんな未来があるのならばきっとシアワセ・・・。