〜歌は世につれ、世は歌につれ・・・〜


樋口了一さんが唄う、「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」を聴き、
僕のオフクロは泣いた・・・。


僕のおばあちゃんは今95歳・・・。
病院のベッドの上にいて、少しずつ少しずつ赤ちゃんのようになっている・・・。


オフクロを車に乗せて、おばあちゃんが入院している病院へ行くのだけれど、
辛い・・・。
悲しい・・・。
寂しい・・・。


♪あなたの人生の始まりに私がしっかりと付き添ったように、
 私の人生の終わりに少しだけ付き添ってほしい♪


親であり、まだ子供でもある僕にも、
その歌の詞は、胸に迫る・・・。


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「お母さん・・・。」
オフクロはベッドの傍にいて、おばあちゃんの頬を撫でる・・・。
おばあちゃんは赤ちゃんみたいな顔で、オフクロを見つめ、
「うん・・・、うん・・・。」って返事をする・・・。


オフクロは、おばあちゃんの頬に自分の頬を寄せる・・・。
そして、優しくて哀しい声で、
おばあちゃんの耳にささやく・・・。


「お母さん・・・。
 お母さん・・・、ゴメンね・・・。
 私・・・、
 もっともっとお母さんの言う事を聞けば良かった・・・。」


この何年もの間、
毎日のようにオフクロはずっと、
こうしてこうして語りかけていたのだ・・・。


僕は、おばあちゃんの病室の窓から外を見る。
雨に濡れる新緑が綺麗だ・・・。


おばあちゃんに頬を寄せるオフクロの顔が可愛くて、
優しくて、
哀しくはなく悲しくて、
ただただ僕は外の景色を見る・・・。


まだまだ娘で、
まだまだ母で、
ようやく祖母だ・・・。


僕よりずっと小さくなったオフクロの言葉が愛しい・・・。


もしかしたらね、神様なんて実は、いないのかもしれない・・・。
それでもいいやと僕は思う・・・。


悲しくて小さくて、人間は弱いのだけれど、
こんなにも、
こんなにも、
人間は、ね、懸命に生きているのだから・・・。


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娘が僕のアルバムを探し出して笑う・・・。
「パパ、ちっちゃかった頃、可愛い〜。」って笑う・・・。



「ちっちゃかった頃のパパってさ、ポメラニアンの仔犬みたいだよね・・・。」って笑う・・・。
う〜む、人間として42年生きて、オッサンになった僕だが、
ポメラニアン呼ばわりされたのは初めてだ・・・。


写真の中のオフクロを見る・・・。
まだまだ20歳そこそこだった頃のオフクロを見る・・・。
結構な、可愛い若妻じゃないか?
変てこりんなポメラニアンを抱っこしている写真なんだけれどな・・・。
一生懸命な表情じゃないかと僕は思う・・・。


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「お母さん・・・、
 お母さん・・・、ゴメンね・・・。
 私、もっとお母さんの言う事を聞いていれば良かったね・・・。
 お母さん、
 ゴメンね・・・。」


赤ちゃんみたいになったおばあちゃんにオフクロは語りかける・・・。


でも、僕は、ふと思う・・・。


もしもオフクロが、さ、
おばあちゃんの言う事を聞いていたら、さ、


僕は、この世にいないんじゃね〜か?


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人は、
小さいけれど強い・・・。