薫風。

薫風・・・。
くんくん・・・、くんくん・・・、
風の匂いを嗅いでみよう・・・。
くんくん・・・、くんくん・・・、
心の中で、楽しい何かが沸き立つような感覚の香りがする・・・。
これが5月の風の匂い・・・。
薫風・・・。


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くんくん・・・、くんくん・・・。
楽しい何かが心の中で沸き立ち、そして研ぎ澄まされる。


くんくん薫風・・・。


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「5月の風の匂いを嗅げ」と、僕に教えてくれたのは、
高校2年生の時の現国の先生だった。
ただ教室の窓を開けるだけでは飽き足らず、
先生は僕らを学校の外へ連れ出し、風を嗅ぐ練習をさせた・・・。


奈良県の高校だったからね、驚かれてしまうかもしれないのだけれど、
校庭の脇に古墳があったんだ・・・。
(古墳だぜ、古墳・・・。フ〜ンって聞いてほしい。)
小高い古墳の上にクラス全員で登り、5月の風の中で深呼吸をした・・・。


「いいか!鼻の穴を広げるんだ!
 もっともっと広げるんだ!
 先生を見ろ!それから、なっ、
 サブちゃんをイメージしろっ!」って言う先生の表情が真剣だった事を覚えている・・・。


フガっ、フガフガ・・・。
先生、これで何如で御座いやしょう?と、みんなで鼻の穴を広げた・・・。


フガ。


古墳の上。
40人近くの高校生と先生が鼻の穴を広げている光景は、
古墳の中で眠っている昔の偉い人だってビックリしていただろうけれど、
とても良い授業だったと思う・・・。
たしかに風は薫っていた・・・。


フガフガ。


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今、僕は仕事場の窓を開けた。
今日も5月の風は爽やか・・・。


薫風を嗅ぐ。
鼻の穴を広げて・・・。


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鏡を見てみる。
変な顔・・・。


フガっ・・・。


よしよし、鼻毛は出てないぞ・・・。


フガフガ・・・。