その時僕は。

その時僕は、空の上にいた・・・。
空の上にいて、神様の肩の上に乗っていた・・・。


神様:「おい、オマエ、この夫婦を見てみな・・・。
    オマエ、こいつらのトコロに生まれてみねーか?」

見ると、随分と神経質そうな若者と、
妙に明るいネーちゃんが一緒に暮らしている・・・。
四畳半のアパート、風呂は無い、
しかも便所は共同だぞ、ホイ・・・。
かなり厳しい生活環境だと言えよう・・・。
それにしても何だコリャ?ネーちゃんがキャベツを炒めてるぞ・・・。
わっはっは、これがこの二人の晩飯なのかい?
神様よう、せっかく声を掛けてくれて悪いんだけれどよ、今回はパス!
オレ、あんまり行きたくね〜な・・・。


神様:「馬〜鹿。
    だからオマエはダメなんだってばよ。
    ぶっ飛ばすぞ!この野郎・・・。
    ちっ、
    もっと良く見てみろよ、こいつら結構いいぜ・・・。
    楽しそうじゃね〜か?」


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げっ、マジでこいつらキャベツを食ってるよ・・・。
青虫じゃね〜か?
筋金入ってね〜か?
「貧乏」って名のコンクリートによ・・・。
しかもしかも、ネーちゃんがキャベツを箸でつまんで、
「あ〜んして!」なんて言ってね、若者の口に運んでるぞ・・・。


神様:「なっ?楽しそうだろだろ? 
    オレってさ、口は悪いんだけれどよ、一応は神様だ・・・。
    悪い事ぁ、言わねえ・・・、
    こいつらんトコロに行けって・・・。」


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翌日、工場で若者が働く場面を見た・・・。
真剣な顔でな、若者は一生懸命に働いていた・・・。
なあ、神様よう、
コイツ、こんなに必死になって働いてるのによう、
ど〜して貧乏なんだ?


神様:「馬〜鹿。
    だからオマエは馬鹿なんだよ・・・。
    オレは、な、ずっとこいつらを見てる・・・。
    こいつらの将来を悪くはしないつもりだぞ!この野郎!」


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そう言って神様は、
肩の上に乗っている僕の頭を、パーで叩いた・・・。


神様:「いいか?
    オマエはよ、汚ねえアパートの共同便所が気に入らねえのかもしれねえ・・・。
    だが、冷静に考えてみろって・・・。
    こいつらんトコロに生まれたってしばらくは、よ、オマエはオムツ生活だろ〜が・・・。
    共同便所をオマエが使用するシチュエーションは有り得ないだろ?
    オマエをよ、ムーニーマンって名付けちゃうぞ!この野郎!
    オマエがオムツ生活から離脱する頃にはなぁ、
    きちんとした暮らしをこいつらにさせてやる予定なんだよ、この馬鹿タレ・・・。
    オレのメモ帳を見せてやろーか?」


そう言って神様は、
肩の上に乗っている僕の頭を、今度はグーで叩いた・・・。


もう一度僕は、
地上で暮らす若い夫婦の姿を見た・・・。


真面目だけが取り柄の若者・・・。
明るいネーちゃん・・・。


神様:「いいから行け!馬〜鹿!」


神様は僕を掴み、地上に向けて放り投げた・・・。


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ピュ〜っと空を舞いながら僕は叫んだ・・・。


ひっ、ひでえぞ・・・。
ひでえぞ!クソじじい!
てめ〜、それでも神様か!
これが神様のする事か!


うわ〜ん!


クソじじい!
覚えとけよ!


うわ〜ん!


神様:「わっはっは!アイツ、行きおったわい・・・。
    お〜い、
    しっかりと人生をな、生きて来い!
    これでしばらくは天空も静かになるだろう・・・。」


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次の場面・・・。


僕は、ホギャ〜としか発音出来なくなっていた・・・。


明るいネーちゃんはいつも、僕に頬ずりをした・・・。


「生まれてきてくれてありがとう・・・。」


僕は、あまり言葉を話せなかったのだけれど、
いつも、神様に、ね、近況を伝えていた・・・。


なあ、神様・・・。
あんたの言うとおりだった・・・。
こいつら、イイ夫婦だったよ・・・。


最高の両親だったよ・・・。


神様・・・。



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あのね、子供を虐待しているといったニュースが新聞の紙面を賑わす・・・。


僕は、
いつも涙が溢れて止まらなくなる・・・。


神様よ・・・、
みんなあなたの肩の上に乗っていた子供たちでしょ?


助けてあげて・・・。
助けてあげて・・・。


僕は、祈る・・・。