たんのうの意。
Nくん(私立Y高1年・投手)の親父さんからメールを頂く・・・。
Nくんは先月の練習試合で怪我をし、初めて野球で弱音を吐いたのだと伺う・・・。
「お父さん、せっかく私立に行かせてくれて悪いんだけれど、僕は、もう野球を辞めたい・・・。」
そのメールの文面の奥に、親父さんの心の葛藤が見える。
親父さんの心の葛藤の向こうに、ね、Nくんの心の中の不安や苦しみが垣間見える・・・。
Nくん、がんばれがんばれ・・・。
深呼吸をして、頭の中で一拍おいてから想いを言葉にしよう・・・。
お父さんやお母さんや、チームメートを悲しませてしまう言葉ならなおさらだよ・・・。
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Nくんや、Nくんの親父さんに、ね、
もしも何かの役に立てばと考え、
僕は、僕がよく知る一人の元投手の話をしようと思う。
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その少年が怪我をしたのもちょうど今頃、晩秋の練習時だった・・・。
入学してから半年あまり、ずっとずっと積み上げた努力が崩れてしまったのだと少年は思った。
フィールディング練習の紅白戦。
打球は鋭く1,2塁間を抜けたかと思った・・・。
横っ飛びした1塁手の先輩のミットの僅か先をボールは抜けたからね・・・。
それで彼はスタートを1歩遅らせてしまったんだ・・・。
だが、2塁手の同級生はそのボールに追いついた・・・。
彼は焦り、走者と競争しながら1塁ベースを目指して走った。
2塁手のトスが大きく外れ、彼は身体をよじるようにしてグローブをはめた左手を伸ばした・・・。
左足、腿から脹脛(ふくらはぎ)にかけて電流のような激痛を感じ、
彼は悲鳴を上げて倒れた・・・。
積み上げた努力という名の積み木が崩れたんだよ。
その時少年は、僅かばかり先の小さな不安に怯えて泣いた・・・。
身体の痛みよりもね、心の不安の方がずっと痛かったんだ・・・。
2塁手の同級生を恨んだ・・・。
そして声を上げて泣いた・・・。
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「たんのうやで、たんのうの心が大切やで。」
塞ぎ込む彼に向けて、先生は毎日声を掛け続けてくれたんだ。
たんのう・・・。
たんのうがね、どんな漢字なのかは知らない・・・。
ちなみに今、たんのうを漢字変換してみると、ね、「堪能」と出た・・・。
「たんのうが大切やで、神さんが君を楽しませようとしてくださったんやで。」
たんのうとは、
どんな状況にあってもな、それを味わって喜んでしまおうという意味なのだと言う・・・。
どん底の彼には、ね、その頃、その言葉の本意は伝わってはいなかったのだけれど・・・。
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どん底ならさ、這い上がればいい・・・。
積み木が崩れたならな、また積み上げればいい・・・。
たんのうの意味など伝わらなかったけれど、
彼は、もう一度もう一度を何度も何度も繰り返す事に決めた・・・。
すると、ね、
恨みなんて消えた・・・。
不思議と、ね、
心にワクワクが蘇ったんだよ・・・。
彼が背番号1を背負ったのは、
それから1年半後の事だ・・・。
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Nくんよ、
目先ばかりが全てじゃない・・・。
もっともっと先にな、何かがあるんだよ・・・。
スゴイ何かが必ずあるんだよ・・・。
アオイクマだ・・・。
アオイクマなんだよ・・・。
あせらず・おこらず・いばらず・くさらず・まけず・・・。
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「せっかく私立に行かせてくれて悪いんだけど。」なんてな、二度とお父さんに言ってはいけないよ・・・。
私立も公立もあるもんか!・・・野球に、ね・・・。
野球を続けさせてくれている事だけに感謝し続けておくれよ・・・。
言葉になんかしなくたってその気持ちは、さ、
必ずお父さんに伝わっているんだからね・・・。
がんばれがんばれ、Nくん・・・。
最初から積み木を積み直せばいい・・・。
楽しみながら、さ・・・。
がんばれ!