オランダの画家、フェルメールが描いた絵画の青は、本物のラピスラズリを砕いて作った絵の具の青なのだそうだ・・・。
深い深い青だ・・・。


日本語で、ラピスラズリは瑠璃と言う。
最も古くから愛された宝石のひとつ・・・。


フェルメールの絵は、見る人の胸を打つ。


でも、ね、それは、
砕かれたラピスラズリの哀しみではないと僕は信じている・・・。


もっともっと深いところから湧き上がる本物の美しさだ・・・。


本物の美しさの前で、ただふるえる人間でありたい。
本物の美しさを目の前にした時、
ふるえる事が出来る人間でありたい・・・。


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いいかい?
君は、砕かれたラピスラズリじゃない・・・。
もっと強く、
もっと深く、
輝く高校球児だ・・・。


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もう一月ほど前になるだろうか、
ナイターで、野球強豪校同士の三年生たちによる引退試合があった・・・。


記録には残らぬ試合だ・・・。
だが、僕は、その試合をいつまでも記憶に残していたいと思う・・・。


そうだよ、笑わば笑え・・・、
両校とも、そう、ベンチ入りさえ叶わなかった選手たちの試合だ・・・。


だが、ふるえる美しい試合であった・・・。
本物の甲子園がそこにあったのだ・・・。


フェルメールの絵画のように美しい試合だったのだ・・・。


青春という言葉は陳腐なのだけれど、
そこにある青は、きっと、瑠璃色なのだろうと僕は思う・・・。


瑠璃のような素晴らしく青い青春を過ごした選手たちばかりであったのだから・・・。


誤解を恐れずに言おう・・・、
そこそこの学校にいたとしたら、な、
間違いなく彼らは、
ベンチ入りどころか、主力になっていたとしてもおかしくない選手ばかりだ・・・。


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スタンドの応援も、な、
どうだい?
本物の甲子園以上だと思えないか?


僕は泣いた・・・。
地の底から湧き上がる本物の美しさにふるえて泣いた・・・。


良い・・・。
ここまでで良い・・・。
君たちは砕かれた絵の具になったラピスラズリじゃない・・・。


二度とない高校時代を野球に賭けたひとりひとりの、な、
その瑠璃色の青春の輝きに僕は泣くのだ・・・。


こんなにも美しい甲子園があるかい?
神戸に、さ、あるかい?


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フェルメールの絵は、本物の瑠璃の色・・・。


君が駆けた青春を僕は忘れないよ・・・。


君は日本で一番美しい甲子園に立った・・・。


僕は、両校の選手たちの青春を、ね、
僕自身のプライドにしたいと思った・・・。


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阿久悠さんになりたい・・・。


スタンドでいつも僕は阿久さんを想う・・・。


ポニーリーグを想う・・・。


野球に賭けたすべての真っ直ぐな少年たちの心を守ってあげたいと思う・・・。


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いいかい?
信じていてね、


君は砕かれたラピスラズリじゃないんだ・・・。


誇り高き野球少年だ・・・。