ちいさなちいさな君に、
野球の神様の話をしよう・・・。
ちいさなちいさな君が、
大きな心になれるように、
野球の神様の話をしよう。


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日曜日の午後、とてもシアワセな気持ちで僕ら夫婦は、息子の高校野球の場所から帰途についた。


我が家まであと少し、
懐かしい小学校が見える一方通行の道を、ゆっくりと僕は車を走らせた・・・。

「あの子、ずっとあなたを見てる・・・。」


カミさんが指差す先を見ると、
小学校時代の息子と同じユニホームを着た男の子が、じ〜っと僕を見ていた・・・。


大きな眼鏡をかけた、
ちいさなちいさな男の子。
わっはっは!
やっぱりコヤドラのユニホームは格好いい・・・。


じ〜っ。
シゲシゲと僕を、じ〜っ。
じ〜っと見つめる男の子・・・。
大きな眼鏡の奥に見える目が可愛い・・・。


最徐行で車を走らせ僕は、男の子の脇を通る・・・。


その間ずっと、じ〜っ・・・。
じ〜っと僕を見つめる男の子・・・。


いやん。
そんなに見つめちゃ、いやん。
オジサンは照れちゃう・・・。


なあ、カミさんよ、
僕は顔に何か付いてるか?
鼻クソとか、頬っぺに付いてないか?
もしくは、僕の顔が面白いのか?


何であの子は僕を見つめる?


「もしかしたら、あなたの何かが伝わったのかもよ・・・。」
そう言ってカミさんは笑った・・・。


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僕はちいさな男の子に手のひらを見せた。


大きくな〜れ!
野球で大きくな〜れ!
高校生になっても野球を続けておくれ!


手のひらから念を送った・・・。


ちいさなちいさな男の子。
ちいさな頃の息子みたいなサイズの男の子。
小山ドラゴンズの男の子・・・。
がんばれがんばれ〜!


寄り道しないで帰るんだよ。


じ〜っと見つめられるのも他生の縁。
オジサンは君の事も野球の神様にお願いしておく・・・。


君も野球で強く優しい少年に育ちますように、って・・・。


カキーン!


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夜、再開したランニングの途中で僕は、小川監督の墓前に息子の様子を伝える。


手を合わせ目を閉じると、
シアワセな涙が込み上げて流れた。


それから、あの眼鏡の男の子の事を、小川監督にお願いした・・・。


どうか守ってあげて下さいね、と・・・。


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夜の風は本当に涼しくなった。


走るのは苦しいけれど、
走り終えた後は心地よい。