ルカ

僕は、その時19歳だった。
間違いない、今と同じ季節、3月のはじめだ。

スザンヌベガが唄う、ルカがヒットしていて、
街にはずっと流れていた。


正式に付き合い始めたばかりの彼女だったカミさんのために、
僕は、白いカバンを買いに出掛けたのだった。


思い出すと笑ってしまう。
お洒落な店じゃない、
僕は、アメ横に行ったんだよ・・・。


ルカ、
スザンヌベガが唄うルカ。
その店にも、ね、
ルカが流れていた。


忘れられないんだ。
首のところから、
服から出ている手首のところまで、
タトゥーがある女の子の店員さんが、
一緒に白いカバンを選んでくれた。


予算は、3000円。
当時の、19歳だった僕には、
精一杯の金額だった。


店内に流れるルカに合わせ、
タトゥーの女の子はステップを踏み、
嫌な顔ひとつせず、
白いカバンを選んでくれた。


「彼女、嬉しいと思う、
私だったら、これがいいかな。」


その白いカバンに僕は決めた。


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ルカが今日、
仕事をしながら聴いているFMラジオから流れた。


19歳だった僕や、
あのタトゥーの女の子や、
18歳だったカミさんの顔を思い出し、
少しだけ僕は泣いた。


ルカ、
ルカ、
スザンヌベガが唄う、ルカ。


若い日々、
何も持っていなかったのだけれど、
宝物みたいな思い出に溢れてる。


何も持っていないとしても、
若さって、ね、
それだけでも、さ、


かけがえのない豊かな日々だったのだと思う。