月を見ていた・・・。

昨夜の月は見事だった・・・。
美しく輝いていて、僕は叩きのめされた・・・。
綺麗な綺麗な月だった・・・。
月を見て涙するのは久しぶりの事であった・・・。


現在、あの月にいる大杉勝男さんを想った・・・。
あんなにも美しい月に暮らす大杉さんを、僕は羨ましく思った・・・。
想い、思う、
僕はやはり大杉さんが好きだ・・・。

なあ、小さな小さな野球小僧たちよ、
大杉勝男さんを知っているかい?


月に向かってホームランを打っていた・・・。
そんな野球選手が本当にいたんだぜ・・・。

生れて初めて観に行ったプロ野球の試合で僕は、
大杉勝男さんのホームランを見てしまった・・・。

それからずっとずっと、
僕は、大杉勝男さんの大ファンであり続けてる・・・。


月に、お兄さんがいるのだと信じていた・・・。
貧しい暮らしの中、必死に野球道具を揃えてくれたお兄さんがいるのだと信じていた。
弟に野球を続けさせようとしたお兄さんは若くして亡くなってしまうのだけれど、
お兄さんは死んでしまったのではなくて、
月に行ってしまっただけだと大杉さんは本当に信じていたんだね。


あの月に兄貴がいる。
オレは、たくさんのホームランを兄貴に届けたい・・・。


月にいるお兄さんにホームランボールを届けようとして、
そんな気概で打席に立っていたのだもの、
その姿は本当に格好良かったんだよ・・・。


月に向かって打ってた・・・。
月に向かって打ってた・・・。
大杉勝男は、月に向かって打ってた・・・。


もしかしたらスタジアムは、
大杉勝男にとっては、
ただの一枚の紙切れだったのかもしれないよね・・・。
その一枚の紙切れに、ね、
大杉勝男という詩人は、
バットというペンで美しい詩を書いたんだ・・・。


まこと、野球選手とは、詩人である・・・。
僕は、そう思う・・・。


「勝っちゃん・・・。
 勝男・・・、
 勝つ男と書いて勝男・・・。
 いい名前です。」


お兄さんが残した手紙の言葉を胸にして、
彼は打席に立ち続けたんだ・・・。


そして月に向けてホームランを打ち続けたんだぜ・・・。


ウルトラマンよりも、
スーパーマンよりも、
仮面ライダーよりも、ね、


少年だった僕の心にあるヒーローは大杉勝男・・・。


美しい月を見るたびに思うんだよ・・・。
打席で大杉さんはどんな月を見ていたのだろう?って・・・。


大杉さん、
大杉さん、
野球は人々と共に在る。


小さな小さな野球の好きな子供たちすべてを、
あなたは天空の美しい月から見守り続けて下さい。