その青年が野球を習い始めたのも、やはり小学校の低学年からであった。
彼もまた野球が好きで好きでたまらない少年であった。


中学時代に所属していたシニアリーグのチームではエースとして活躍し、
周囲の期待を背に、自らの希望を胸に、あの有名な野球の強豪校へ進学した。


好事魔多しとはよく言ったもので、彼は高校入学直後に肩を壊し、
選手として駆ける高校野球の夢は断念せざるを得なかった。


部活を辞めて普通の高校生として過ごし、受験に備えてほしいと親御さんは願ったそうだが、
彼はそれでも部に残り、マネージャーとしてチームに貢献する道を選んだ。
後に、
「アイツがいてくれたからオレたちは甲子園の土を踏む事が出来た。」と語る仲間や、
「あの時、彼が退部を申し出たとしても私は認めなかったでしょうね。」と述懐する当時の監督の言葉に、
僕は、彼の、野球少年として持っていた資質の素晴らしさを感じる・・・。


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それから何年もの時が流れ、
その青年は、今年も東 医体のマウンドに立つ。
誇り高きエースとして。


27歳・・・。
もう母校の名誉やチームのために投げなくても良いと僕は思う。


生まれて初めて野球のユニホームに袖を通した日の幼い自分の笑顔のために、
人知れず涙を流した高校時代の自分のために、
ただそのためだけにマウンドに立つ事を、この夏は許してあげたい・・・。


本当の最後の夏に輝こうとするエースがいる。


野球の神様は、君に、
こんなにも大きな舞台を用意してくれていたよ・・・。


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数多ある大学野球の中で、東 医体はまるでポニーリーグのような存在だ。


野球少年としての資質の素晴らしさは、そのまま人間としての資質の素晴らしさであるのだと、
いくつものエピソードを耳にしながら思う夏・・・。