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四苦八苦ではあったものの定期考査をどうにか乗り越え、
ホッとするのも束の間で、いよいよ息子たちは実習が始まる。
たぶん実習なんて名ばかりで、
まだまだ医者のタマゴである彼らに出来る事は何も無いよ、間違いなく。
まったくの丸腰で現場に向かい、ただただ心を研ぎ澄ますのが目的なのだと思う。
息子が赴く先は、小さな子供たちが病気と闘う病院だ。
息子自身の記憶には残っていないだろうけれど、
息子は初めての誕生日を迎えるまでに二度、同様の病院に入院していた事がある。
たとえ記憶には無くても、その苦しさや悲しみは、息子の魂の奥底に刻み込まれているはずだ。
病気と闘う小さな子供たちの強さに触れて、
まだ何も出来ない己の無力さを思い知らされるだけの実習であっていい。
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神様は、時として意地悪で残酷だ。
病気と闘う小さな子供たちを見ると、今でも僕はそう思う。
この子に何の罪があるんだよ!って・・・。
息子よ、
赤ん坊だった君が入院していた時、
父ちゃんはそう考えていたんだ・・・。
もしかしたら小児科医ってさ、
運命に抗い、神様とさえ戦わなければならない職業なのかもしれないね。
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「僕は20年前、小児病院で救って頂いた者です。」
君のその言葉で、
あの時、君のために神様と戦ってくれたお医者さんは報われる事だろう。
今度は君が、子供たちを救う番だ・・・。
そのために今、君は勉強を続けているんだ・・・。
アンパンマンになれ・・・。
アンパンマンのようなお医者さんになってくれ・・・。
病気と闘う小さな子供たちの笑顔を守れる、
アンパンマンのような人間になってくれ・・・。
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「お兄さん、どうしてお兄さんの髪の毛は赤いの?」
そ〜んな事を病院で子供たちから尋ねられたらな、
それは、子供たちと仲良くなれる絶好のチャンスだ。
かもよ。