タイム アフター タイム 1

それは僕が小学3年生だった時の事だ。
同級生のお父さんに連れられて僕ら10数名の仲間は、よく山歩きに出掛けた。
清瀬5小の山岳部だなんて名乗ってさ、行くのは近場の山ばかりだったけれど。


ある日曜日、リュックと水筒をぶら下げて僕らは、飯能の山へと向かっていた。
(そうそう、懐かしいな、当時の西武線の電車の床は、木がむき出しだったんだぜ。)
電車の中は空いていたが、僕らは座らず立って電車にガタンゴトンだった。
なにしろ僕らは山岳部だろ?電車で山の男が座っちゃシャレにならないもんね。


その時な、
僕らの目の前の座席には釣りに出掛けるらしいオジサンたちが数名座っていた。
既にちょっぴりお酒が入っているように賑やかであった。
そのオジサンたちの中の、一番声の大きなオジサンの顔が面白くてさ、
まるで獅子舞の獅子のような顔だと思って僕はジ〜ッと見ていたんだよ。


僕の熱視線に気付いたのだろうな、
その獅子顔のオジサンが僕に話し掛けてくれて、いろいろと喋った。
そしてオジサンは僕らに小さな魚獲り用の網をくれたんだ・・・。


僕らよりも一つ手前の駅で釣りのオジサンたちは下車して、
山岳部の僕らは電車の窓越しに またね〜!と叫んで手を振った・・・。


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その数ヵ月後、
驚くべき事に、
オフクロの末妹が連れて来た婚約者は、あの獅子顔のオジサンだった。
ビックリしたさ、オジサンも僕も・・・。


またね〜!と叫んで手を振ったのは、子供なりの社交辞令だったのだから、
また本当に会えたのは不思議であった。


獅子顔のオジサンは、僕の叔父さんになった・・・。


下町育ち、チャキチャキの江戸っ子で、お祭り好きな叔父の印象は ずっと変わらなかった。
随分と可愛がってもらった。


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叔父は僕の事をヒロアキではなく、シロアキと呼び続けた。
粋な江戸っ子ってえのはさ、シとヒの発音がテレンコなのよ・・・。


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本日、
その叔父貴の通夜・・・。


享年71歳・・・。


寂しくなるなあ・・・。