連日夜遅くまで頑張って書き上げたレポートが認められ、息子はなんとか一つも単位を落とさず進級出来そうだ。
次の実習先も希望をしていた小児科の現場と決まり、更に勉強に打ち込まなければならない状況に自分を追い込んだ。
がんばれがんばれと、父親である僕に出来る事は、心の中で祈る位だ。
学んで学んで学び続けて、小さな子供たちを守るアンパンマンのようなお医者さんになってくれって。


今、この瞬間にも、きっと、
オギャ〜って産まれた赤ちゃんがいるよ。
赤ちゃんたちの誰もが健やかに、元気いっぱいに大きくなりますように。


現在、小児科医や産婦人科医を目指す医学生は増えているのだと聞く。
なんと心強い事だろうかと思う。
そんな若者たち全員が、アンパンマンのようなお医者さんになってくれたらさ、
どんなにか素晴らしいだろう。


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清瀬にあった小児病院の跡地は、フェンスに囲まれた広大な更地になっている。
ここが公園になるのだと知り、とてもホッとしている。
見覚えのある懐かしい木々たちは、あの日のままの姿で高くそびえてくれている。
優しい木々は、病気と闘った勇敢な子供たち一人一人の顔を、決して忘れていないだろう。


木々が思い出す勇敢な子供たち一人一人の顔の中に、
息子よ、オマエの顔もあるのだ。


この先どんなに辛くても苦しくても勉強を重ねて、その上にまた勉強を重ねて、
勇敢な子供たちと共に闘う者であってくれ。


あの優しい木々たちは、オマエを誇りに思うだろう・・・。
小児科医や産婦人科医を志す若者たち全員を、誇りに思っているだろう・・・。


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居間に、無造作に置かれていた文庫本は、
息子が買い、読み終えた本である。


手に取り僕も読んではみたが、
その悲しさに涙が溢れ、最後まで読む事は出来なかった。


ただ、息子にとってみれば、
ものすごく大切な事を教えてくれる教科書になったのではないか。



人間とは、ここまで誠実に生きる事が出来る存在なのである。


命とは、生まれながらにして既に勇敢なのである。