「 みんなで焼き肉を食べて帰るので晩御飯はいいです。 」と、
息子からLINEで連絡があった。


うんうん、うんうん、
若者たちが揃って焼き肉なんてね、
いかにも青春って感じがして微笑ましいじゃないの。


たぶん、食べ放題の すたみな太郎 チックなお店なのでしょうな、
と、思っていたらアナタ、
なんと行ったお店が 叙々苑 だと聞き僕は激しく憤った。


叙々苑は、ね、叙々苑は、
チェーン展開なのだけれどとても高級なお店なのよ。
普通の人がマジメにコツコツ働いたっておいそれとは行けないお店なんだよ。
そんな高級なお店に、
学生の分際で行っちゃイカンと僕は思う。


50歳の父ちゃんでさえ、
とりあえず会計を気にせず 叙々苑 で食べられるようになったのは40歳を過ぎてからだぞ。
懸命に働いて働いて、
そんでもって徐々に行けるようになるのが 叙々苑 じゃないか。


「 すげえ高くてビビッたけれど、本当に美味しかった。 」
当初は憤っていた僕なのだが、
息子のそんな言葉を聞き少々ホッとした。
身の丈以上の贅沢をしてしまった事を謙虚に反省し、受け止めているのならば許そう。


ああ、
なんだか僕も久しぶりに焼き肉を食べたくなっちゃったぞ・・・。


牛肉。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


高校時代、
寮でね、試験の前になると焼き肉会があった。


一年生だった時の事だ。


コンロの脇に、
牛肉の載ったお皿と、豚肉の載ったお皿と、
野菜の載ったお皿が並んでいた。
四人一組で僕らは丸くなり、網が熱くなるのを待っていた。


その時、
豚肉の載ったお皿を持った上級生が現れ、
「 おい、この豚肉と牛肉を交換してくれや、イヒヒッ。 」と言って、
僕たちの牛肉のお皿を持って行ってしまったのであった・・・。
「 何や?その顔、何か文句あるんかっ!グッシッシ。 」


う〜む、
貧しく卑しいヤツめ。
そう思って許した僕らだったけれど、
あのね、50歳になってもね、
ソイツの名前と顔は忘れないでいたんだよね・・・。


昭和57年、
敗戦から37年経ってもなお、お腹を空かした少年がいました。
って、忘れられないでいたんだよね・・・。


その上級生はその後、田舎の小さな町でT教の教会長になったらしいが、
運営が上手く行かず、とうとう一昨年、その教会は没落してしまったそうだ・・・。
同窓会で聞いた唯一、後味の悪い話であった・・・。


僕らのあの牛肉のお皿は、
もしかしたら僕らの不徳だったのではないかと当時の仲間たちと話した。
僕らの不徳をそれ以上の不徳をもって持って行ってくれたイイ先輩だったのではないかと、
そう考えて35年ぶりにマジで許してあげる事にした。


食べ物の恨みは恐ろしい・・・。
僕も美食にとらわれた現在の自分を戒めなくちゃな〜。


牛肉。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


今年の結婚記念日には、
カミさんを伴い 叙々苑 へ行こうと思う。


牛肉って、素敵。