僕が背後からいきなり抱き上げて高い高いをしたものだから、
たぶん、マホちゃんは嫌がって泣いたのではなく、
驚いて泣いたのだと思うよ。


下唇を突き出し、ヒックヒックと泣きが収まらず、
小さいながらも怒った顔で僕に向かってバイバイをしていたぞ・・・。
うんうん、うんうん、
そうして感情をしっかりと表せるのは素晴らしい事だ。
わっはっは、
Eテレのぬいぐるみの踊りよりもな、イイ勉強になったんじゃないか?マホちゃんよ。


「 ああ、せっかく機嫌良くしていたのに・・・。 」と、
マホちゃんの泣き声を聞いて飛んできた妹が言った。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ 


妹の顔には、うっすらと、
〜 もう帰って 〜
と、書かれていた・・・。


だから僕はそのまま帰途についたのであった・・・。


〜 もう帰って 〜
か・・・。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ 


さかのぼる事34年・・・。
あれは僕が高校1年生だった時だ・・・。


オフクロは、当時3歳だった妹を連れて奈良まで来て、
僕らの授業参観に参加していたのだ。


授業中、
妹はトコトコと歩いて僕に抱きつき、
「 オ兄チャン、一緒ニ帰ロウ。 」と言って泣いたのであった。
エンエンと泣いたのであった・・・。


僕が家を出て寮に入って数か月、
妹は幼いなりに寂しがっていたのだろうなと考えると切なくなったものだ・・・。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ 


「 オ兄チャン、一緒ニ帰ロウ。 」
そう言って泣いていた妹が34年後、
〜 もう帰って 〜
な〜んて事を顔に書くようになっちまったんだぞ・・・。


時の流れは残酷よね。