チン事件

御徒町の竹町公園内の公衆便所にて、
商用の途中で小用を足していたところ、
僕の隣の隣のアサガオで僕より早く用を足し終えた青年が、
いきなり「 テ〜ッ! 」と叫んで前屈みのまま動かなくなった。


前屈み且つ、少々へっぴり腰だよ、横から見ると。
ああ、かわいそうに、チャックではさんじゃったんだな、コルトを。
テ〜ッ!は、痛ぇ!だったのだね・・・。


今時の若いビジネスマンだよ、たぶん僕の息子と同年代であろう青年である。
流行の細いスーツのズボンだからさ、ファスナー部分が狭いのかもしれないね。
父親世代の者として、放ってはおけないよ、
ちょっと待ってろよ、オジサンが外してやっから・・・。


と言うと青年は、
「 ううっ、うぐぐ・・・。 」と返事をした。


僕はもう51歳なので、
ズボンとパンツを降ろして小用を足している。
そのままズボンとパンツ(トランクス)が下まで落ちたら大変なので、
こうしてガニマタで用を足しているワケよ、
全部出し切るまでと、格納後にジワッとならないまでしっかり振るので時間は掛かるけれど、
終えたらすぐに外してやっから泣くんじゃないぞ、男だろ?
と、僕は青年を励ました。


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珍事件だと思うかい?チンだけに。
でもな、コレは結構あるんだよ、
男なら誰もが知っている痛みだと言ってもいい。


僕は幼稚園児だった頃に慌てて半ズボンを履く際に はさんでしまい、
あまりの痛みに外してくれようとしていた若い女の先生の頭をポカポカ叩いてしまった事がある。
僕が女性を叩いたのは、51年生きてその一度だけだ・・・。


ズボンとパンツを降ろして小用を足す事を、
法律で定めてもいいんじゃないかとすら思うよ、オジサンは。


年齢を問わず、
男子が全員ズボンとパンツを降ろして小用を足せば、
こんな悲劇は繰り返されないで済むだろう・・・。


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それにしてもな〜、
こんな非常時に限ってなかなか僕の小用は終わりませんな〜、
チョボチョボ・チョボチョボとキリがない・・・。
どうしちまったんだ?僕のマグナム・・・。


「 うう〜っ、ぐぐ〜っ・・・。 」って、
その青年のうめき声に心が痛む・・・。
人を待たせるって罪な事だよね・・・。


我慢だぞ、ガマンガマン・・・、我慢だけが男を磨くのだ。
おいおい、変にイジるんじゃないぞ、
どんどん深く食い込んじゃうでしょうが・・・。


その時、
「 あっ、外れましたっ! 」と、青年が言った。


おおっ!良かったじゃないか!
おめでとう!と僕は、肩越しに笑顔で応えた・・・。


「 ご心配お掛けしました、ありがとうございました。 」
玉のような冷や汗を浮かべた顔で青年は僕に言い、
そして公衆便所から出て行ったのであった・・・。


めでたしめでたし・・・。


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この時点でもまだ僕の小用は続いていた・・・。
致し方あるまいよ、なにしろ51歳なので。


それにしても今時の若い連中が着るスーツは、だな、
ズボンが細過ぎるとオジサンは思う。
細くて短過ぎだよ、くるぶしまで見えちゃう・・・。
50代の僕らから見ると、
そのズボンは つんつるてん と言います・・・。


流行り物に惑わされるなよ、
大事なモンをこうしてチャックにはさんじまうぞ・・・。


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誰かの痛みに想いを馳せられる男であり続けたい・・・。


お盆休み明けの御徒町で、僕はそう願った・・・。


きちんと手を洗い、
その手をジーパンでゴシゴシ拭きながら・・・。


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チ〜ン!