綿毛が飛ぶ頃きっと。

朝、家族揃って車に乗って出掛ける・・・。
考えてみれば、随分と久しぶりの事だ・・・。
家族4人で車に乗って出掛けるなんて・・・。


とは言え、4人でどこかへ行くってワケじゃない。


娘は予備校へ。
息子は野球部の練習へ。


それぞれの最寄り駅まで送りがてら、
僕とカミさんは買い物をしにスーパーまで行く・・・。
そんな行程・・・。


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東久留米駅のロータリーで娘を車から降ろす。


「行って来ま〜す!」
ひらひらと手を振りながら娘は改札口に向かう・・・。
肩から下げたバッグが妙に大人っぽく思えた・・・。


「がんばっておいで・・・。」
助手席に座るカミさんが言った・・・。
僕にしか聞こえぬ程の小さな声で・・・。


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花小金井駅のロータリーで息子を車から降ろす。


「じゃ。」
って、おいおい、
それだけかよ、セリフはよ!って程の無愛想さで息子も改札口へと急ぐ・・・。


「がんばっておいで・・・。」
カミさんは娘に対しての時と同じように言った・・・。


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「がんばっておいで・・・。」
娘に対しても、息子に対しても、
おそらくカミさんは何気なく呟いたような言葉なのだけれど、
それが僕の心に残る・・・。
きっと、母親ならではの言葉なのだと思った・・・。


こんな場面でさ、
父親ならではの言葉ってあるのかな?
車を発進させながら僕は考えていた・・・。


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そうそう、
地面のあちらこちらに今、
タンポポが綿毛になっているのに気付いてる?


カミさんと2人だけになった車内で僕は尋ねた・・・。


「うん、可愛いわよね・・・。
 風に乗って飛んでいくのはしばらく先みたいだけれど・・・。」


そうか、やっぱり気付いていたか。
たぶん、もうちょっとだよね、
風が強く吹いたらアッと言う間にみんな飛んで行っちゃうんだろうね・・・。


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綿毛がフワフワと巣立って行った後の、
茎だけになったタンポポの姿を想った・・・。
車の中の僕とカミさんってさ、それに似ているのかもな・・・。


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スーパーで買い物を済ませて僕らは車に戻った。
お昼ごはん代わりに買ったパンを車の中で食べた。


ふと、僕らの視線は、若い家族連れに向く。


若いお父さんが3歳ぐらいの女の子を抱っこしている。
お母さんは乳母車を出して男の子の赤ちゃんを乗せようとしている。
赤ちゃんはむずがって泣いているぞ・・・。
ホギャ〜ホギャ〜ってな。
とっても大変そうな様子なのだが、
なぜだかシアワセそうに見えた・・・。


「きっと、私たちも、あんな感じだったわよね・・・。」
カミさんが言った・・・。


僕も、そう、同じ事を考えていた・・・。


とっても大変だったのだけれど、
とってもシアワセな日々だった・・・。


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風が強く吹く頃、
タンポポの綿毛は巣立つ・・・。


茎だけになっても親は、シアワセなのかもしれないな、と、
カミさんの横顔を見ながら思った・・・。


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僕:「婆さんや・・・。」
カミさん:「爺さんや・・・。」
なんて呼び合う日だってな、アッと言う間に来るんだろうな・・・。


「婆さんや・・・、」
「爺さんや・・・、」


長生きしてぇな・・・。