名前について

だが、な、
高校生になってからも自分の名前を漢字で書かなかった同級のチームメートの話題について語るのはやめておこう。
彼は今、東大阪でな、若い衆を何人も雇う塗装店の社長だ。
彼の会社の野球チームは強いらしい。
それもまたシアワセな事だ。


僕は、難しい漢字を覚える時、自分で考えたハニホヘ式を用いるのだけれど、便利なハニホヘ式を最後まで理解出来なかったのは、ね、前述の彼だけであった。
彼が自分の名前をヒラガナで書く理由は、ただ早いからであった。


そう、彼の球も速かった。


学校を去るのも早かったのだけれど。


「オマエ、好きやったで。オマエに逢えへんかったらオレ、ずっと東京のヤツを嫌いやったと思うわ。」


寮を去る彼の野球バッグを持ち、僕は駅まで送ったのだった。


その時の彼の言葉が忘れられない。

毎年届く彼からの年賀状を見る。


もちろん、漢字で書かれている。


彼の御両親が彼のために贈った名前は素晴らしいんだよ。


僕は、あらためて全ての人にな、名前に込められた意味を考え続けてほしいと願う。


バッセンの、ね、壁に掲げられたカマボコ板の名前を見ながら、僕がニコニコするのはきっと、名前たちのキラキラ感に心が揺り動かされるから。