〜黒目川沿いの遊歩道にて〜


対岸に見える土管の口からひょっこりと、2頭のタヌキが顔を出していた。
夫婦だろうか?兄弟だろうか?
顔は出したものの、そのままボ〜ッとしている様子がとても可笑しかった。


あ〜あ、カメラを持ち歩いていればよかったなと、残念に思った。
普段の朝の散歩だからさ、デジカメはおろか携帯電話さえ僕は持っていないぞ。
こんな時は・・・、そう・・・、記録より記憶だよね、
僕は手摺につかまり、そのままこちらもボ〜ッと2頭のタヌキを見物した。


「おや?、タヌキですね。」と、声を掛けられ振り返ると、
散歩中にいつも会釈を交わす高齢のご夫婦であった。
おそらく僕の両親よりも上の年代のご夫婦だが、いつも仲良く手をつないで歩いているので、
心の中で僕がチャーミーグリーンと名付けていたご夫婦だ。
あらためて言葉を交わすのは初めてである。


「見てごらん。」と、旦那さんが奥さんに話し掛ける。
すると奥さんはニコニコしながらタヌキの様子を眺めた。
その間もずっとご夫婦は手をつないでいるので、
僕はタヌキよりもこのご夫婦の方が可愛らしいと思えた。


仲が良いですね〜って、僕は言った。
旦那さんから伺った事情は、ちょっぴり切ないものであったのだけれど・・・。


少しずつ子供に戻っていく奥さんを支えながらの暮らしなのだそうだ・・・。


イライラしたり、怒りたくなったりする、大変な暮らしなのだそうだが、
仲良く手をつないで外を歩ける事は素敵ですよと僕は言った・・・。
そう言ってから少し、申し訳なくも思った。
お気楽にそんな事を言えるのは他人事だからかもしれないって・・・。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


もしも数十年後、
カミさんが子供に戻り始めてしまったとしたら、
僕も手をつないで一緒に歩きたいものだ・・・。


もっともな、カミさんよりも僕の方が先に子供に戻っちゃう可能性が高いからな、
その場合にも手をつないで歩いてくれたら嬉しい・・・。


・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・


それにしても土管から顔を出している2頭のタヌキは呑気なものだ。


だが、この呑気さが人間にも必要なのだろうな・・・。


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これから先、
散歩中にこのご夫婦を見掛ける度に、
会釈だけではなく積極的に話し掛けようと決めた・・・。